16 楽園-8-
「し、死んでるのか……?」
彼は恐ろしくなったが、好奇心に負けてもうひとつのカプセルも見てみることにした。
そちらには少女がいた。
「これは棺か……この部屋にあるのは全部……」
カイロウは眩暈を覚えた。
仕事柄、遺体は見慣れているハズだが、まさかこんなところでまでお目にかかるとは思いもしなかった。
「遺体安置室のようですが、それにしても……」
言ってから彼女は首をかしげた。
そしてもう一度、中を覗き込む。
何かを思いついたらしい彼女は、いくつかのカプセルを見て回った。
衣服をまとっていない点を除けば、安置されている人の性別や年齢はさまざまだった。
「妙ですね、これ――」
と彼女が呟いた時だった。
2人が入って来たのとは反対側の扉がゆっくりと開いた。
カイロウは咄嗟にリエの腕を掴んでカプセルの陰に隠れた。
何者かが入って来る。
足音の間隔からして歩くのは遅いようだ。
だが奇妙なのは、その音だ。
金属同士がこすれ合うような、耳を叩くような高い音が規則正しいペースで響く。
「別に隠れなくてもいいのでは? 今度は話ができる相手かも――」
人差し指を立てて自分の唇に当てると、カイロウはそっと様子を窺った。
「ドクター?」
「いや、これでいい。言葉が通じるどころか……」
彼は見た。
何者かが2本の鉄の棒を足のように動かして歩いている。
明らかに人間の足ではない。
まさかあの追跡者、実は生きていて先回りしたのでは、と彼は思った。
この位置からではまだ全身は見えない。
しかし人間味のない、得体の知れない存在であることは想像できた。
そっと身を乗り出して注視する。
何者かはカプセルのひとつを覗き込んでいる。
その姿にカイロウは危うく声を上げるところだった。
見た目は人間そのものだった。
長身で痩せた男――もし暗がりで目撃したら誰もがそう思うだろう。
だが実際はそう見えるだけの機械人形だった。
湾曲した金属プレートを繋ぎ合わせた手足が、銀色の無骨な胴体から生えている。
頭部は人のそれを模しているようだが鼻や口はなく、大きなレンズが3つ、逆三角形に取り付けられているのみだった。
(なんだあれは……!)
手首の先から伸びた幾筋にも分かれた細枝のような指が、カプセルの天面にあるボタンを操作している。
リエに動かないように言い置いて、カイロウはもう少し近づいてみることにした。
隠れるには困らない。
音を立てないようにカプセルの隙間を這う。
人形は操作を終えると、すぐに別のカプセルに向かい同じようにボタンに触れた。
それら一連の動きは極めてなめらかで、カイロウは中に人が入っているのかもしれないと思った。
彼も簡単なロボットのようなものを手掛けたことがあるが、設定された単純な動作しかしないシンプルなものばかりである。
おまけに動きと動きの間には逐一静止する瞬間が存在し、誰が見ても機械と分かるぎこちない挙動しかしない。
しかしこの人形は彼が知るどのロボットとも全く異なる。
手先の器用さ、関節部の駆動、歩き方ひとつとっても数世代は先のものと思われた。
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