16 楽園-1-

 食事を終え、一息つきたいハズのダージはそわそわしていた。

 今さら何を思っても時は既に遅い。

 彼にやるべきことがあるとすれば、外の騒ぎに乗じて新しい取引相手を見つけることくらいだ。

「さっきからどうしたのよ?」

 落ち着きのないダージに、妻は怪訝な顔をした。

「いろいろ考えてるんだ」

「珍しいわね。明日は雨が降るんじゃないかしら」

「降るのは明後日だよ」

 調達屋としてクジラの動向は頭に入っている。

 しかしそれも買い手がいてこそ役に立つ習慣だ。

 特に大口の固定客がいなくなったとなれば、仕事のやり方は再考しなければならない。

「お恵みのほうじゃなくて本当の雨のことよ」

 こうして妻と軽口を叩き合えるのも、自分の選択は正しかったからだと彼は何度も言い聞かせる。

 役人たちはずいぶん前からカイロウに目をつけていたらしい。

 付き合いの長いダージに狙いを定めた彼らは、暗に妻を人質にとるような口ぶりで情報提供を求めた。

 彼はすぐには応じなかった。

 カイロウには見切りをつけようとも思っていたが、やはり取引を続けてきただけあって情もあった。

 だが妻が謂れのない罪を着せられて投獄されると脅され、彼も話さざるを得なくなる。

 結果、取引記録を押収されたものの、今のところ彼女に危害は及んでいない。

 一方、やはりカイロウのほうは無事では済まなかったらしい。

 気になったダージは数時間前に彼の家を訪ねた。

 ドアが壊され、室内もひどく荒らされていた。

 言うまでもなく彼の姿はどこにもなかった。

 こうなっては辿り着く結論はひとつしかない。

(オレは……カイロウさんを売ったことになるのか……?)

 開き直ってもよかったが、まだ断ち切れない情がそれを邪魔した。

 妻を人質にとられていたのだ。

 誰だって自分の家族を一番に考えるものだ。

 だから仕方がなかった。

 実際、彼だって娘を想うあまりにクジラに反抗的な態度をとってきたのだ。

 自分は間違ってはいない。

(それに――)

 仮に口を閉ざしていたとしても、カイロウには他にも付き合いがあっただろうから、その方面にも捜査が入ったにちがいない。

 となればどの道、彼の運命は変わらない。

 自分は運悪く役人の目に留まっただけだ。

 そう思うことでいくらかは自責の念も和らぐが――。

 やはり自分の供述が決め手になったのでは、という思いは拭えない。

「なんでこんなことになったのか……」

 ついてもついてもため息が出てくる。

「ちょっと散歩でもしてくるよ」

 ダージは気晴らしに外の空気を吸うことにした。

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