15 翔破-5-

「飛びましたよ!」

 リエの声に合わせるようにカイロウは力強く桿を引いた。

 手製の機体と異なり、方舟はまるで滑るように空高く舞い上がっていく。

 そのはるか先ではクジラが大口を開けて待ち構えているハズだ。

 だが灯台にぶつけた衝撃が原因なのか、機体は思うように上昇してくれない。

「リエ君、足元にあるレバーを引いてくれ!」

「何をするんですか?」

「石を燃料室に流す。そうしなければクジラまで届かない!」

 彼女は言われたとおりにした。

 タードナイトを格納してあった空間の壁が開き、ごろごろと転がりながら移動している感覚が伝わってくる。

 方舟の速力は速く、徐々に引き離されているのが目で見ても分かる。

「あの、ドクター……下がだんだん熱くなってきてませんか……?」

「奇遇だな。私もそう思っていたところだ」

 薄霞の向こうに、白色の船体がほのかに見える。

 これ以上、距離を開けられれば見失ってしまう。

「レバーは引いたか!?」

「はい、さっき確かに!」

「そろそろのハズだぞ……」

 方舟の姿はとうとう見えなくなってしまった。

 月明かりも遮られ、機体は真っ暗闇を上へ上へと飛び続ける。

「なにか間違ったの――」

 彼が言い終わる前に機体ががたがたと揺れ出した。

 金属のこすれ合う嫌な音があちこちから聞こえる。

 コックピット内の温度が上昇し、座席も熱を帯び始める。

「こういう構造なんですか!?」

 リエは身を屈めて叫ぶ。

「そうだ! でも設計図には書かなかった!」

 翼の辺りから軋むような気味の悪い音が響く。

 その直後、強い衝撃とともに機体は凄まじいスピードで方舟を追いかけた。

 空気の層が厚い壁となって機体を叩く。

 それに伴って霧が濃度を増していき、外は黒から赤褐色に変わった。

 目前に白い点が見えた。

 方舟だ。

 進路も理論も、何もかも計画は正しかったのだとカイロウは確信した。

「追いつきますよ!」

「ああ、分かってる!」

「そうじゃなくて! 避けないとぶつかります!」

「このスピードでは少し向きを変えるだけでもどこに行くか分からない!」

 慣れた道を車で走るのとはちがう。

 方舟を見失い、方向感覚が狂えば軌道修正は不可能だ。

「”真っ直ぐ飛ぶ”ので精一杯なんだ!」

 そう言っている間にも方舟との距離は徐々に縮まっている。

 濃霧の中でも輪郭がはっきり見えるほどだ。

「じゃ、じゃあ速度を落としましょう! 本当にぶつかりますよ!」

「ああ、それは作っている時に言ってほしかったな!」

「どういうことですか!?」

「そういうふうにはできていないんだ!」

 方舟との距離は十数メートルもない。

 タードナイトと反応させるタイミングが早かったのかもしれない。

(くそ……どうする……!?)

 カイロウが桿を握り直した時だった。

「ああ――!」

 視界を覆っていた霧が一瞬にして晴れ、巨大な穴が姿を現した。

 彼は反射的に桿を左に倒し、急旋回させる。

 ぐるりと世界が半回転し、機体が穴へと吸い込まれる。

 左翼が何かにぶつかりバラバラに砕け散った。

 均衡を崩した機体は穴の中で転がるように激しくスピンした。

 擦過した尾翼が火花を散らす。

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