13 復讐鬼-3-

 決行の時は3日後に迫っていた。

 義肢作りを止め、レキシベルからの受注も止めた彼は、残りの時間と財産の全てをこれに注ぎ込んだ。

 既に完成はしていたが、娘を取り戻すという目的を達成するためには改修を繰り返してもなお足りない。

 もちろん、これ以外にも準備は必要だ。

 これまでダージに依頼し、確保してきた大量のタードナイトを施設地下に運び込む。

 袋に無造作に詰め込まれたこれは、誰の目にもただの宝石にしか見えない。

 カイロウにしても偶然見つけた古い文献を読んでこの石の特性を知らないままなら、自分には無縁の光る石だと見向きもしなかっただろう。

 誰が著したのかも分からない書物に触れたことは、彼にとっては幸運だった。

 クジラに近づく効果的な方法を手に入れられたのだ。

 著者が存命なら両手でも足りないくらいの謝礼を支払っただろう。

 大小さまざまな石を工具を用いて削り、形を整える。

 できるだけ均一なサイズ、形状に仕上げる必要があった。

 金属ではないため勝手がちがうが、この手の作業は慣れている。

 数日間はこれだけに費やしてきた。

 そのおかげで片手に乗るほどの、ブロック状のタードナイトが200個は出来上がった。

(これで足りるだろうか……?)

 多ければ多いほど良いとの考えはあったが、充分かどうかの確信はない。

 文献によればこの石は、石油系の燃料と反応させることで強い推進力を生み出すらしい。

 数百年まではこれを列車や船舶の動力としていたようである。

 現在では高品質な燃料が精製できるようになったので、タードナイトが使われることはなくなった。

 ――というのは表向きの理由で、実際はある時期を境に政府がこの石の使用を厳禁したからだ。

 タードナイトの生み出す推進力は石の質量、表面積に左右される。

 質量が大きいほど、表面積が広いほどその効果は増す。

 一番の問題は得られる推進力に限りがないことだった。

 理論の上では石が充分にあれば宇宙に飛び出すことも可能だという。

 当時はその推力に耐えられるハードウェアが存在しなかったため、物理学者の数字遊びだと揶揄されていたようである。

(私もその時代に生きていたらバカバカしいと思っただろうな)

 その文献が今、彼を助けるのである。

 タードナイトを部屋の隅に積み上げ、布をかぶせる。

 今日の作業はここまでだ。

 このペースなら当日には間に合う。

 来たるその時に備えて心身を休めることも大切だ。

 カイロウは散らばった工具類を片付け、作業場を出た。

「今日は遅かったですね」

 リエがいた。

 術衣姿だが、今日は施設自体を閉鎖していたハズだ。

「……急患でもあったのかい……?」

 平静を装ったつもりだが、彼の顔はひきつっている。

 ブザーは鳴らなかった。

 彼女がここにいる理由はない。

「いいえ、今日は誰も来ていません」

「だったらどうして――」

 きみがいるのか、と問いかけて彼はふと思い当たる。

 そういえば彼女は施設にいると落ち着くと言っていた。

 その際に冗談のつもりで部屋を借りたらどうかと勧めたが、本当にここに住むようになったのではないかと。

「様子を見に来たんです」

 リエは微笑した。

「何の――?」

「――ドクターの」

 彼女の目はわずかも笑っていなかった。

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