11 方舟-1-

 胸騒ぎがしたら、それは必ず何かの合図である。

 けっして気のせいだと侮ってはならない。

 いつかデモスに言われてから、カイロウはそうしてきた。

 ダージに謝礼を払ってここ数週間のクジラの遊泳ルートを手に入れた彼は、丸一日それを見続けた。

 ごひいきのダンナのために、と彼は地図にいろいろと補足してくれている。

 雨を降らせるために静止している秒数、各地を訪れた回数、聖地の規模などがくせのある字で書きこまれてあった。

 カイロウは同じ大きさの白紙を横に並べ、自分でも図を作ってみることにした。

 クジラの動きをなぞるように順番に線をつなぎ合わせていく。

 移動に法則はあるか。

 法則があるなら例外はどの程度の頻度で発生しているか。

 聖地の規模と立ち寄る回数には相関があるのか。

 些細なことも見逃さないように作図する。

 そうしているうちに彼はある不審な点に気が付いた。

 まとめられた情報とそれを元にした経路図はきわめて正確なハズなのだが、いくつかの辻褄が合わない箇所が存在している。

 まるでそこだけ計算をごまかしたように、ぽっかりと穴が空いてしまうのだ。

(この進路なら次の聖地にはもっと早く到着するハズだぞ……?)

 カイロウは自分の計算が間違っているのかもしれないと、作図をやり直した。

 だが何度試みても、決まって同じ場所で矛盾が生じてしまう。

(この区間だけ速度を落として泳いでいるとしか思えない)

 だとすればその理由は何なのか。

 しばらく考えてみるが答えは得られない。

「本人に訊いたほうが早いな」

 時間を無駄にしたことに気付き、彼は机上に広げた資料をわしづかみにして家を飛び出した。

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