9 観測-2-
「ストップ! ここで待機だ」
小さなガレキの山が点在する一帯に辿り着いた時、ダージが振り返って言った。
「こんなところで止まるのかい?」
辺りは土や草、ガラスに金属片、動物の骨などが堆くなっている。
カイロウは近くにある丘陵に登ってみた。
雑品の海が渺茫と広がっている。
数百メートル先にひときわ大きな山があった。
「あそこに降るんじゃないのか?」
「ええ、たしかに。ダンナも分かってきやしたね」
ダージは得意気に笑って言った。
「ならもっと近づいてもいいんじゃないのか?」
カイロウが言うと、彼はかぶりを振った。
「今日は”見学”だ。これでも目いっぱい近づいてるほうなんですぜ。ほら――」
ガレキによる起伏で分かり辛いが、目を凝らすとあちこちに人の姿が見える。
彼らは獲物を狙う獣のように姿勢を低くし、山を見据えている。
「ダンナは一番乗りを見たいんでしょう? オレはこれでも近すぎるって思ってるくらいなんだ」
ダージは何があってもこれより前に出るべきではないと言った。
そんな彼とは対照的に、集まった人々は身をかがめたまま、じりじりと山に向かって進んでいく。
「あたしも賛成だよ」
どうにも不服そうなカイロウを見かねて、ネメアも口を挟む。
「賊からならいくらでもあんたを守ってやれるけど、”あれ”は無理だ」
「そうなのか……」
2人のプロに止められてはどうにもならない。
カイロウはバッグから双眼鏡を取り出し、平らな場所に置いて分解しはじめた。
「何をやってるんです?」
「いや、もっと近づけると思っていたからね」
ばらばらになった部品に用意しておいた別のパーツを付け足して組み立て直す。
出来上がった双眼鏡は元の1.5倍ほどの大きさになった。
「へえ、器用なもんだね」
ネメアは感嘆した。
「今度、護身用に持ち運びできる物でも作ってもらおうかね」
「材料があればね。きみが持っているような物を作るのは難しいが」
武具の製造は分野がちがう。
丈夫な義肢は作れても、悪漢から身を守れるほど堅牢ではない。
「護身と言えば……」
ネメアは思い出したようにダージに向きなおった。
「今日はあの男は一緒じゃないんだね」
「前に雇ったクイって奴か?」
「そう。あんたと親しかったみたいだけど」
彼は手を振った。
「あいつはダメだ。隠密性ってのがまるでない。あれじゃかえって賊を呼び寄せちまう」
調達屋は押し並べて目立つことを嫌う。
一流は顔どころか気配すら隠して、風のように現れて霧のように消え去ると言われるほどだ。
「ああ、そのほうがいい。それが正解さ」
ネメアは眉をひそめて言った。
「あのクイって奴、賊とグルだって噂があるんだ」
ボディガードの中には賊と手を組んで依頼主を襲う演技をさせ、それを見事撃退したように見せる者もいるという。
安全確実に金が手に入り、賊にもいくらかの報酬が渡るため、これを専業としているボディガードや賊徒もいるらしい。
「とんでもない奴だな」
ネメアが言うには、自分たちのような仕事をしている人間は依頼を受けるまで雇い主との接触を図ることはないという。
反対に恐怖心を煽ったりしてやたらと売り込んでくる場合は、裏がある者が多いようである。
「そういえば声をかけてきたのは向こうからだったな……」
ダージが思い返した時、はるか遠くからかすかに汽笛のような音が聞こえてきた。
近くにいた何人かが一斉に空を見上げる。
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