第6話 不死身の秘密を聞かせて貰う噺
「よくある話だよ。この町の周り、防壁に囲まれていたでしょ」
確かに転移門から出てきた高原から見下ろした町は、結構な広さがあったのに、その周囲はぐるりと防壁が囲っていた。
「この辺りは昔からよく魔物門ができちゃってね。町を護るために、結界を巡らせた壁を築いて対応してるのよ」
この町には大きな冒険者協会があり、多くの冒険者が常駐しているのだが、現れる魔物は下級の物がほとんどで、高位の冒険者はあまり滞在してくれない。
「昔取った杵柄ってやつでね。私も冒険者をしていた頃があったから、領主の所の兵隊と一緒に、たまぁ~に出てくる中級以上の魔物退治に、駆り出される事があるのよ」
およそ16年前の事、それまでにはなかった大量の、中級クラスの魔物が出現し、町の住民や旅人の中から犠牲者が出てしまった事件が起きた。
「犠牲になった旅人の遺児、男の子を私が引き取ったんだよ」
その男の子がウイックで、本人はその事を物心がついた頃に教わって知っているそうだ。
「あの子の本当の誕生日は分かってないんだけど、見つけた時はまだ首が据わってなくてね。だから出会った日の一月前を誕生日に決めたのよ」
大海洋界では帝国で28代前の帝王の頃に、天文学者が星の巡りを研究した成果として、一年の暦を発表した。それに乗っ取り、世界中の住民が、年齢を持つようになった。
「あの子が私たちの子供になって、二年後にマニエルが生まれてね。偶然にもあの子達誕生日が一緒なのよ。ウイックの誕生日は本当はハッキリしてないんだけどね」
その時マーリアは新婚ほやほやで、旦那も了承の上でウイックを我が子として受け入れ、やがてマニエルが誕生して、二人は仲の良い兄妹と評判の元気いっぱいの子供に育った。
「貴方達、あの子の体のヒミツは知ってる?」
「ヒミツって、不死身体質について……でしょうか?」
ストレートな質問に、思い当たる節は一つだけ。ミルも直球で返し、マーリアは首を縦に振った。
「あの子が5歳になっての事よ。また大きな魔物門ができてしまってね」
そう言った事が頻繁に起きれば、国も対策を取ってくれるのだろうけど、五年前の事件から変わったのは、領主が私兵の数を増やした程度だった。
「私も奮戦したんだけどね。魔物の数はあの時の数倍。国軍が到着するまでの被害も比べものにならない規模になって、家に残していた旦那と、あの子達も被害を受けたのよ」
旦那はこの事件を切っ掛けに家を飛び出し、数年前にひょっこり戻ってきたかと思えば、他の町で家庭を持った事を告白し、マーリアは快く離婚を承諾した。
「元々ぼんくらの遊び人みたいな男だったからね。真面目に働く気になって、別の女と上手くやっていけるなら、私に言う事はなかったわ」
それよりもである。
「魔物に襲われた時にね。元旦那は必死に3歳のマニエルを護ってくれたんだけど、5歳のウイックの事までは手が回らなくて、私が戻ってきたときには瀕死の状態だったのよ」
マーリアの表情が厳しくなり、苦虫を噛み締めたような顔で昔話を続けた。
「安全を確かめもしてないのに、私はあの魔晶石を使って、あの子を助ける事を第一に考えた。元々理力がバカみたいに吸収されやすく、内包できるキャパシティーの大きな子供だったんだけど、ウイックは魔晶石との相性が良くて、直ぐに傷は塞がったのよ」
その魔晶石はウイックを拾った時に、ゆりかごの中にあったもので、仕事と家事の合間に色々と調べてみたが、なんら掴む事はできず、ただ怪我を負って息も絶え絶えだったウイックの、直ぐ側に転がっていた秘石を近付けると、呼吸が整うのを見て、胸に押し当てたのだそうだ。
「怪我が治って安心したのだけど、それ以来あの子の胸から外れなくなっちゃったの」
それからウイックは不死身の体になったそうなのだけど、今もまだ続いている魔晶石の秘密についての研究。
やはり石そのものの秘密は、何一つ分からないままだったが、ウイックの体が不自然な回復能力を得た理由は少しだけ分かった。
「あの子の体は本人の物じゃあない」
「体って、どういう事ですか?」
「言葉のままよ。あの子の体は、あの魔晶石の中にある。今の体は精神体。魔晶石が作り替えたアストラルボディーなの」
魔晶石を核として体を取り込み、遺伝子情報を元に復元された体。
だから切り刻もうが、散り散りになろうが、核さえ無傷なら直ぐに回復してしまう。それが不死身の秘密。
「それを隠すためにあの子は秘術を学んだ。不自然な事も秘術の所為にすれば、誰にも疑われることがないからって、私が叩き込んだ」
だからウイックはミルに対しても小細工をし、超回復を秘術のお陰に見えるようにしていたのだ。
「あとね、これも知っておいて。あの子の魔晶石は魔物を呼び寄せる。あの子が成人もしてないのに旅に出たのは、一つ所に留まらせるのが危険な事が分かったからよ」
最初の事件から5年、二度目の事件以後は段々と間隔を狭めて、強力な魔物門が開くようになり、頻繁に襲い来る魔物達は、秘術を覚えたウイックが尽く退治していったが、いつまでも謎を隠し通せるとは思えず、マーリアはウイックを旅立たせた。
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