第26話 合流した少女達が、次に何をするのか話し合う噺
「イシュリー!」
「ミルさん、ご無事だったんですね」
お互いの状況を簡単にウイックから聞いていた二人は、先ずは安否確認ができてホッと胸を撫で下ろす。
その後、ウイックの事をミルから聞いて、イシュリーは急いで合流をすべきだと言ってきたが、その考えに同意は出来なかった。
「私たちが行っても足手まといになるだけだわ」
エルラムの剣筋を見たわけではないが、それなりに腕に覚えがあるのは間違いない。
とは言え本当にさっきのが剣技勝負なら、勝っていた自信はあった。
それでもあの妙な術式を使われては、全く勝ち目は事は、身をもって体験している。
イシュリーの実力の全てを知っているわけではないが、ウイックに一瞬でやられた事を思えば、恐らくは自分と変わらない結末が待っているだろう。
ウイックが警戒している相手に、自分は足手まといにならないように、逃げてくる事しかできなかった。
「私も覚悟を決めないといけないのかもね」
「なんですか?」
「うぅうん、なんでもないわ」
出来ることなら剣技一本で剣豪の位まで上り詰めたいと考え、鍛錬を続けてはいるが、ウイックと行動を共にするのであれば、早々に覚悟を決めないといけない事があるが、今はまだ誰にも話せる状態ではなかった。
「私も苦手な精霊術を格闘技に合わせられるように、もっともっと修練しなくてはなりませんね」
獣王として、格闘技は極みに達していると思われるイシュリーにも、伸び代はまだまだあるようだ。
「そこでだけど、私たちは予定通りにもう一つ下の階層に行きましょうよ」
エルラムの話では、もう最下層の魔物は一掃されているようだけど、依頼達成を報告するには、自分達の目で確認する必要がある。
最下層には強力な魔物がいることは、斥候と隠密行動を専任とする
「もしかしたらお宝も残っているかもしれないしね」
そっちは全く期待していないが、モチベーションを上げる材料には十分と言えた。
ウイックのことは心配だし、直ぐにでも見に行きたいし、どんな戦いになるのかも気になるけど、自分達の責任を果たすのが最善だとミルは判断した。
「判りました。それで下には二人で行くんですか?」
「ええ、騎士団のみんなはまだ回復しきってないし、何より上級モンスターをまともに相手に出来るのは多分私達だけだと思うから」
王国軍の精鋭達なのだから、その実力は上級冒険者に匹敵するだろうけど、この階層での戦い方を見る限りでは、これ以上の無理はさせない方がいいだろう。
藍玉騎士団には、紅玉騎士団の事をお願いして、二人は先に進んだ。
二人きりになると、急に昨日の出来事を思い出してしまい、ミルは何を話していいのかが思い浮かばなくなる。
「ミルさんは……」
思い悩んでいるところにイシュリーから声を掛けられ、面食らうミルは背筋を伸ばして仁王立ちしてしまう。
「な、なに?」
「ミルさんはウイックさんとは古い知り合いなんですか?」
そう言えば、まだお互いのことを話し合った事はなかった。互いを知ることなく騎士団を交えての談笑はいっぱいしたのだけれど。
「古くはないわね。まだ出会ってから半年くらいだもの」
ミルはゴブリンの巣で助けられたことから、最初は同業者としてウイックを警戒し、厄介者扱いしていた。
「私たちが協力体制を結んだのは、獣王の神殿に向かう直前の事よ。その日の朝にも一悶着あったんだけど、メリット優先で彼に提案したの」
思えば色々あったけど、あれからまだ三日目なのだ。ミルもまた気になる事が心に浮かんで聞いてみる事にした。
「ウイックにくっついて来てるのって、やっぱりその、彼の子種が欲しくてなのよね」
「最初は、そうですね」
種族を向上させるために、獣王は己よりも強い男との交配を望んできた。
だがその願いが叶うのは稀な事で、運良く強者を見つけても、目合う事の出来ない事も珍しくはない。
「私が
誰の目からも愛くるしく、年齢よりも発育の良い少女から懇願されて、流されない男がいったい何人いるか分からないが、ウイックに振られても諦めがつかない。その根拠をイシュリーは考えた。
「一目惚れ、それだけでは説明になりませんか?」
「いいえ、それは最初から聞くまでもないわ」
そう出会ってから三日。イシュリーがウイックと一緒にいたのは最初の一日目だけ、一目惚れ以外ないのは言うまでもない。この可憐な少女に、そうさせた理由が知りたいのだ。
「自覚したのはさっきですよ。行きずりでもいい。目合ってくれればすれで……。ですが、それだけでは嫌だとハッキリしたのはついさっきです。多分最初からその想いはあったんでしょうけど」
悪漢共から助けられて感情が芽生えた。よくある話だ。そしてウイックにはそれだけの魅力がある事をミルは認めていた。
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