第24話 完全に翻弄され、絶体絶命のピンチになる噺
双剣の乱舞を涼しい顔で、一本のサーベルで捌ききる。
右手に持った剣を前に突き出した半身の構えで、ミルのようなタイプの剣士では攻めにくいのは確かである。
日々磨きを掛け、まだまだ伸び代はあると実感はある身だが、ここまで同年代相手に通用しないとは、剣しか取り柄のない身としては、流石に焦りを覚えてしまうが、手数を増やし、変化を付けてラッシュを掛ける。
ここまで多くの魔獣を切り倒してきて、疲れがあるのは確かだが、体の切れはまだまだある。息を止めての連続攻撃も苦しくない。
「悔しいけど歯が立たない。防戦一方で全く攻めてこないのに、手も足も出ないなんて」
突っ込まれないように注意して、変化あるステップを踏んではいるが、全く突きを返してきたり、身をかわして横から斬りかかったり、牽制にもなる動作は一切してこない。
嘗められているのは間違いないが、エルラムは息一つ切らせることなく、不敵な笑みも変わらないまま。
敵わない相手であるのは十分理解した。だけど手を止めるわけにはいかない。自分が時間稼ぎをして、騎士団がイシュリーを連れてきてくれれば、まだ違う展開に持って行けるかもしれない。
ミルは更に奮起して攻撃をし続けた。
「おかしい、なんで?」
敵の強さは認めるしかない。だが自分の身体能力は自分が一番よく知っている。
ここまで渾身の力を振り絞っているのに、息が続いて体の切れも落ちていない。
「まさか!?」
ミルは歯を立てて自分の唇を切った。
「やっぱりそう言うことだったのね」
突然視界がぶれて、立ち位置が変わる。
エルラムも目の前にはおらず、少し距離を置いてサーベルも手に持っていない。
「幻覚を見せられていたと言う事かしら?」
「あら、自力で破ったんですか? すごいですね貴方」
最初からハンデなど期待はしていなかった。
ミルには聞き覚えのない、法術と言う物を使って、事を優位に運ぶつもりなのではと警戒もしていた。それがこうもあっさりと主導権を握られてしまった事は、既に勝負が着いていた事を意味するが、今それを認めるわけにはいかない。
「そもそもが戦う気すらなかったとはね」
どのくらいの時間、独り相撲を取らされていたのかは分からないけれど、息は整っている魔獣との戦いの疲れも随分と取れてきている。
切った唇の血を拭い、ミルは双剣を構え直す。
決着していないいじょうまだ負けた訳じゃあない。
幻覚の中の敵の動きはここからはない。きっと自分の技は通用する。ミルに自信が甦る。
「無駄ですよ。貴方が夢の中にいる間、ワタクシも少々飽きてきていたので、色々と仕掛けさせていただきましたので、もう貴方はそこから動くことも出来ませんよ」
ハッタリだ。こうして剣を掴む手も、地面を踏み込む足にも十分力が入っている。
「信じてもらえませんか? でしたらその場で思い切り剣を振ってみてください。それで理解していただけると思いますので」
また何か心理戦に持ち込もうとしているのか? 目線は相手に、注意を怠らず剣を一度なぎ払った。
「なに? 結界!?」
固い壁を叩いたような衝撃。剣は見えない何かに弾かれた。
「中からは手が出せませんが、外からは串刺しなんてことも簡単です。これで手詰まりですね。終わりにしましょう」
エルラムはサーベルを抜き、ゆっくりとミルに近付いてくる。
「相変わらず卑劣な手ばっかり使ってやがるな」
「あらあら、もしかして貴方のお連れ様でしたか?」
後一歩で、剣がミルの急所に届きそうな位置まで近付いたエルラムは振り返り、割って入ってきた影に正対した。
「お久し振りですね。ウイックさん」
「なんでこんな所にお前がいるんだよ、エルラム」
言葉とは裏腹に、二人はここでの再会を予感していたかのように、親しげな言葉を交わし合う。
「ウイック!? って二人は知り合いなの?」
牢屋にいるはずの男がここにいるのにも驚いたが、エルラムがウイックのことを名前で呼んだのは衝撃だった。
「あんた、もしかして牢屋破りしてきたの?」
「そんなことしねぇよ。今も牢屋には俺が入ってるよ」
ウイックは
「元気そうだなミル、間に合って良かったってところか。エルラム、まさか精霊界でお前に会うとは思ってなかったぜ」
ウイックはミルの側まで行き、怪我をしていない事を確認する。
「なんなのあの女、あんたあいつのこと知ってるみたいだけど、一体何者なの?」
「そいつはまた今度な、ゆっくり説明してやりたいけど、場合じゃねぇからな。それに」
ふらつくミルの体を支えてやり、ついでに胸の弾力も確認する。
「まったくよ。今回はのんびり楽させてもらおうと思ってたのに、お前が来たんじゃあ、ゆっくりはしてらんねぇからな」
鳩尾に強烈なボディーブローを貰ったが、一瞬止まった呼吸を整えて、ウイックは普段は使わないワンドを取り出し、理力を溜め始めた。
「ミルの分も、イシュリーの分もきっちり返してやるからな。ここからは俺のターンだ」
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