第23話 招かれざる来訪者に……噺

 ミルがエルラムに遭遇する少し前のこと。


 イシュリー達は少し拓けたエリアに差し掛かっていた。


 最初に異変に気付いたのは紅玉騎士団長だった。


「モンスターがみんな死んでますね」


「そうですね、すごく静か。ここにも魔物門はあるはずなのに、新しく入ってくる様子がありませんね」


「イシュリーさん、あれを見てください」


 騎士団長が指さしたのは平らな岩場。見た目には何もないそこには……。


「間違いありません。ここに魔物門がありました」


 何者かの手によって、意図的に魔物門が消されている。


「何者かは分かりませんが、隠れても無駄ですよ」


 イシュリーが指さした物陰から顔を出したのは。


「本当に女ばっかりじゃねぇか。しかも粒ぞろい」


 イシュリー以外の騎士団員は初めて見る。この世界にはいるはずのない存在がゾロゾロと出てくる。


「男の人がなぜこんな所にいるのですか?」


「とあるお人に連れてきて貰ったんだよ。と言うか勝手に付いてきたってのが正しいか」


 数は……ちょうど四十人。

 男達は騎士団を囲って、それぞれが思い思いの武器を持って、威嚇をしてくる。


「月並みで悪いんだがよ。痛い目にあいたくなかったら、大人しく従って貰おうか」


 三倍近い人数で包囲したことで勝った気になっているようだが、なんの捻りもない脅し文句では、獣王と呼ばれる闘士と、訓練された王国軍の一師団を怯ませるなんて出来るはずがない。


「何が目的かは分かりませんが、一気に制圧させていただきます」


 イシュリーは一瞬で、近くにいた四人をそれぞれ一撃で殴り飛ばし、その動作を皮切りに騎士達も抜刀して飛びかかる。


 徒党を組む悪漢達は驚く暇もなく、次から次へと伸されていく。


「そこまでだ。調子に乗るなよ」


 最初から最後列にいた、一団をまとめる男が大きな声を上げた。


「これで勝負有りだ!」


 男が手に持っているのは陶器の入れ物。


 何かをされる前に懲らしめてあろうと、ダッシュで肉薄し、右手をリーダー格の男に突き出そうと、体を低く構えたイシュリーは、周りで次から次へと騎士達が倒れるのを見て動きを止めた。


「何が!?」


「最初っからこいつ使っておくべきだったな」


 男が取り出したのは香炉。何か特別な力を持った煙が、洞窟内に拡がっていく。


「何をしたんですか?」

「こいつは精霊力ってのを、煙を使って掻き消す効果のある香なんだってよ。こんなもんで何ができるんだって疑ってたんだが、効果は抜群だな」


 紅玉騎士団員のほとんどは転倒し、気を失っている。どうにか意識を保って立っているのは、騎士団長を含む四人だけのようだ。


「仮面の嬢ちゃんは平気みたいだな。けど妙な動きを見せたら、他のお仲間を順に殺していくからな。大人しくしろよ」


 ゆっくりと近付いて来た男は、イシュリーから仮面を奪う。


「まだ子供か? 可愛い顔してるが、恐ろしい動きをしやがるもんだ」


 イシュリーは知っている。メルティアンは精霊の加護の元、生を長らえる術を身につけているが、それは逆に精霊の力を受けられなくなると、生命活動も阻害されてしまうと言うことを。


 王都に行ったとき、妙に老人が少なかったのは、メルティアンは寿命を迎え、精霊の力を体に取り込む能力を衰えさせると、一気に肉体も老いさらばえてしまう為で、つまりは死を迎える直前まで若い体を維持してる為である。


 騎士団員達はまだまだ若いので死ぬことは無いが、急激に精霊力が失われたことにより失神してしまった。


「まだまだ発展途上だが、いい体してんじゃあねぇか」


 男はイシュリーの体を嘗め回すようにさすり、胸やお尻を念入りに揉みしだく。


 ウイックにされるのと同じ行為なのに、なんて気持ちの悪い、我慢のならない仕打ちなのだろう。


 辺りでは男達が騎士団員達の武器や防具を奪い、更には身包みを剥ぎ取り、イシュリーがされているような、それ以上の辱めを受けさせている。


「それじゃあ俺たちも、もっと楽しむとするか」


 男はイシュリーに馬乗りになり、衣服に手を掛けた。

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