第21話 悶え踊る剣士と、謎の出会いがあった噺

 一方のミルも数多くの魔獣を相手に、こちらは倒した相手を食料と思うことは一切なく、次々と切り刻んでいく。


 斬って斬って斬り続け、ミルを側で見ていると、鬼気迫る物を感じてしまう。


 とにもがむしゃらに一心不乱に、ショートソードを振り回すミルは、頭を整理する為に体を動かし続ける。


 昨日のことは本当に覚えていない。覚えていないからこそ口に出した事は、きっと本当の想いなのだろう。


 ウイックのことを散々にけなした挙げ句、色々と興味を抱いているみたいなことも言っていたようで、朝から意識してしまって、ぎこちなかったイシュリーとの距離も、戦闘に入ったらあまり気にならなくなっていたのだが、二手に別れた途端、また頭に浮かんだ断片をきっかけに切り換えが出来なくなってしまった。


「私がウイックのことを? 私がウイックのことを? 私がウイックのことを?」


 呪文の詠唱のように、同じ言葉を繰り返しては、魔獣を斬り続けた。


 いつもいつも飄々としていて、仲間になっても一緒にいる人間を翻弄して、好き勝手に動き回って、今だって調子に乗って牢獄に入れられて。


 けど彼がいなければ、とっくに死んでいただろう。なんて事もあった。


 秘宝集めでも、一人では路頭に迷っていたかもしれない難問も、代わりに解いてくれたりもあった。


 同業者としてウイックは尊敬に値するし、ミルのことも認めてくれている。


「待て、待て、待て、待て、こんなの、だって……」


 ミルは完全に忘れている。ここには自分以外に八人の騎士団員がいる事を。


 先頭に立ち、魔獣共を尽く退治してくれるので、手持ちぶさたの団員達は、悶えながら器用に戦うミルの様子を堪能できた。


「危ない!」


 騎士団長の大声が谺する。

 天井から一斉に襲いかかってくる魔物の一団。イシュリー達のいるエリアと違い、人型に近い格好をしている魔物、魔人は戦術めいた連携を組んで襲ってくる。


 意表は突かれたが、すぐに体勢を立て直した騎士団は20を超える群れを、あっ、と言う間に片づける。


「気持ちは分かるけど、気を抜いてちゃ駄目だからね。あんた達」


 危ないところだったが、普段からの訓練の賜で、慌てず難なく切り抜けると、再び視線はミルに向けられた。


「えーい、もういい。いくら考えたって答えなんてない。帰ったらウイックの顔面に一発くれてやる」


 まるで憂さを晴らすかのように暴れ回るミルに、騎士団は近付くことも出来ないが、一つずつ確実に魔物門を消していき、担当エリアを見事にクリアし、紅玉騎士団との合流地点となる、最下層に続く通路へ向かう。


 だが示し合わせていた地点には、まだ紅玉騎士団の姿はなく、見知らぬ少女が一人、不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。


「待っていましたよ。思っていたより遅かったですね」


 少女は真っ直ぐにミルに向かって話しかける。


「ワタクシ、法術士のエルラム=イングラムと申します。秘術士の類と認識ください」


 イシュリーよりも幼い顔立ちで、体付きはミルのように成熟している。


「因みに人種ひとしゅ18歳です。メルティアンの方々のような若返りなどはありませんので」


 腰にサーベルを備えているので、剣術も使えるのだろうが、得体の知れなさが増して、少女エルラムから目が離せない。


「私に用?」

「はい、加えて、他の方々には全く用はございません。この向こうの拓けた辺りでお仲間が待っていらっしゃいますよ。急がないと大変なことになるやも」


 長い黒髪をツインテールにして、短いスカートから覗く足もスラッとした、黒のゴシックロリータドレスに身を包む少女は、不適な笑みを浮かべて、異様なオーラを纏っている。


「全く隙がない……、厄介な相手ね」


 この向こう、イシュリーと紅玉騎士団が担当しているエリアで、いったい何があるのか?


「ミルさん……」

「行ってください。どうやら彼女の狙いは私のようですから、ここで抑えておきます」

「しかし危険では?」


 藍玉騎士団長も感じ取っている危険な空気。だが今心配なのは別行動中の仲間達。


「大丈夫、私も簡単には屈しません。だけど早めに戻ってきてください。すごく嫌な感じがするので」


 騎士団長は自分だけでも残ると言ってくれたが、指揮官を欠くことの危険性をミルから諭され、後ろ髪を引かれながらも、仲間達の元へ騎士団全員で向かった。


「私に何か用があるみたいだけど、こっちも色々話を聞かせて欲しいわ」


「構いませんよ。時間ならたっぷりありますから、楽しい一時を過ごしましょう」

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