第19話 いよいよ洞窟に、戦闘開始となる噺

 洞窟は精霊力の濃度が高く、天井に群生する苔が発光しており、灯りを用意する必要がないくらいに明るい。


 中に入ると直ぐに広い空間があり、ミル愛用のグレートソードも十分使えるスペースがある。


 しかし場所によっては振り回せなくなる恐れも考慮して、グレートソードは城に置いてきた。


 今は取り回しやすいショートソードが二本。相手の血糊などで切れ味が落ちないようにしてある秘術付与の掛かった剣が、次々と魔物を両断していく。


「すごいものですね。愛用の武器でなくとも、これだけの動きがとれるとは」


 藍玉騎士団長は愛用のロングソードを、ミルと同じ理由でサブとして利用しているレイピアに持ち替えていることに、幾ばくかの不安を抱いている自分に一括を入れた。


 入り口に近い上層部にいるのは低級の魔物ばかりだが、とにかく数がものすごい。


 キラーラビットやキラーアント、キラービーなど多種に渡る魔物の群れ、師団員には秘術を使える者もおり、一度に何十匹も消滅させることもできている。ただ撃滅数で言えば、ミルが一番でイシュリーが二番手だった。


 イシュリーは素手での戦いが基本だが、低級でも触れるのは厳禁のスライムなどもいる。手にはグローブ。これにも精霊術の付与が成されていて、攻撃力向上、防御力向上、光属性の補助が掛かっている。


「短いリーチも何のそのですね。皆さん、我々はイシュリーさんの邪魔にならないように援護を中心に、離れた敵は我々が一掃します」


 秘術を得意とする紅玉師団長は、一度に十の火の玉を生み出して、遠くの魔物を一網打尽にする。


「本当にキリがないわね。イシュリー大丈夫?」

「はい、まだまだやれます!」


 二人の撃墜数の差は、単純にリーチの差と言えよう。二人の対戦は未だ成されていないが、実力は拮抗していると見て間違いない。


「ミルさんすごい。まるで踊ってるみたいなのに、ときどき変則的なステップを挟んでくるから、動きが読めない」


「さすがは獣王、どれだけ鍛錬をしてきたかは動きを見れば分かる。次の行動が予測の範囲だけど、あのスピードは私でもかわしきれるかどうか」


 朝は互いを意識して目も合わせなかった二人だが、戦闘が始まれば、過ぎたことをいつまでも引きずりはしない。


 朝起きた時、師団長達は昨日の夕食時の事を二人に確認したところ、その事を全く覚えていなかった。


 二人から内容について聞かれたので、師団長達は思い出しながら可能な限り伝えた。


 すると見る見るうちに言葉をなくし、全身を真っ赤に染めて固まってしまい、誰とも目を合わせようとしなくなったミルとイシュリー、一時はどうなる事かと心配したが、どうやら取り越し苦労であったようだ。


「すごい、またスピードがあがった。神殿でこの子とやりあってたら、かなり苦労させられただろうな」


 ミルだって負ける気はしていないが、自分ならどういった組み立てで、イシュリーと取り組めばいいかをシミュレーションし始め、直ぐに今はその時ではないことを思い出し自重する。


 以前はこの洞窟に魔物が出ることはなかったと聞いている。


 前回の討伐出征の時にも、幾つか見つかっている魔界と繋がるゲート、この一団の任務はいつ誰が施したのか分からない、この洞のどこかにある魔物門を見つけ出し、全てを完全に潰すこと。


 洞窟の入り口には女王が張った強力な結界があり、そこから外には魔物は出て来ることができない。


 結界に近いほど、強い魔物は近寄れないので、上層には低級の魔物しかいない。


「この辺りの魔物門は全て掻き消せたと思われます。引き続き紅玉より二名が残り、徹底的に探索します」


 紅玉師団長に命ぜられて、二人が別行動に移る。


「それじゃあ先に進みましょうか? 確かここから二手に別れるんでしたよね」

「はい、大きな分岐はここだけです。後は短い横穴がいくつもありますが、一つ一つ潰していっても、さほど時間は掛からないはずです」


 ミルの問いに藍玉騎士団長は、自分達が向かう側と、紅玉が向かう道を指で示す。


 この下の層と更に下の層。徐々に魔物の力も増していくと言う。

 出来ればまとまって行動したいところだが、時間が掛かりすぎるので、当初の予定通り二手に別れて進軍することとなった。


 イシュリーは出会ったばかりながら、自分以上の実力を示したミルに、多大な信頼を置くその背中を見送り、気合いを入れ直して進行方向へ踵を返した。

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