fragment:31 デイビフォア

 みんな壊れればいい。

 そう思ったのは事実だ。


 良いことなんてひとつもない。戦争ばっかりしているし、政治家は嘘ばっかりつくし、給料は上がらないのにものの値段ばっかり上がるし、金持ちばっかり儲かっている。

 そんなときにあの予言を知った。

 この国に大災害が起きる、らしい。

 だから、こんなクソみたいな世の中、みんな壊れればいい。そう思った。


 本気で信じているわけじゃない。だって、むちゃくちゃ過ぎる話だ。

 でも心のどこかで、もしそうなったら、と思っている自分もいる。

 だからSNS を見る代わりに、友達に電話する代わりに、気になっている人にメッセージを送る代わりに、私は散歩に出た。

 別に大した理由なんかない。ただ、私の暮らしてきた街を見ておこうと思っただけだ。

 明日には瓦礫の山になるかもしれない通りを。

 そこを行き交う、明日には死ぬかもしれない人たちを。


 もしみんな壊れたら、どうなるだろう。

 今よりましになるのか、今よりひどくなるのか。

 いつも静かに出迎えてくれたあのカフェは残るだろうか。

 いつもあのベンチにいた奇抜な格好の人は生き延びるだろうか。

 瓦礫に潰されて死ぬのと、税金が払えなくなって死ぬのと、どちらが辛いだろうか。

 そんなこと、私にわかるわけがない。きっと誰にもわからない。

 今までずっと、そうだったみたいに。


 私は汗を拭きながら街を歩く。金曜日の夕方、人通りは多かった。

 騒がしい街を私は歩く。見慣れた景色を、できるだけ覚えていられるように。

 明日にはみんななくなりますように。

 明日も、残っていますように。

 正反対の願い事を胸のなかで繰り返しながら、私はいつもの横断歩道を渡る。

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