fragment:29 乱丁本の帰路

 バスの一番後ろに座る宮間は耳栓が手放せない。外の音をほとんど遮るらしい高級なやつをしっかりと填めている。壁に頭をもたせかけ、帽子の陰で閉じた目蓋には血の気が薄い。

 私は隣に座り、宮間の手を静かに握っている。まだターミナル駅を出たばかりだ。しばらくこのまま座っていなければいけない。手はとても冷たかった。

 晴れた日曜日。気温も上がって、街なかは人が多い。宮間は終始苦痛に満ちた表情で歩き、最低限の用事を済ませると、何も言わず帽子をかぶった。それが私たちの合図だ。こうなったら、もう帰る以外に選択肢はない。

 自分は乱丁した本のようなものだ、とかつて宮間は言っていた。

 見た目は普通の本だが、開くとページの並びがめちゃくちゃで、話の辻褄も流れもそこには存在しない。一見すると気づかれないし、たまに誰かが手に取っても戸惑ってすぐ閉じるか、珍しそうに眺めるだけだ。

 とぎれとぎれに話していた横顔は、今と同じように、濃い疲労にまみれていたと思う。

 私は宮間の手を静かに撫でる。黙ったままの手を、閉じたままの表紙を。

 そのままのおまえでいい、なんて口で言うのは簡単だ。簡単だから、すぐ嘘になる。

 だから、ただそっと撫でる。

 バスが揺れる。

 その拍子に、宮間が小さく手を握り返した。

 私たちは静かに座っている。

 もうすぐ川が見える。

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