どうせなら生きたいように生きよう。

アスダ

プロローグ 黒い円

「うっ!」


結構な数の乗客と共に電車を降りると外の暑さに一瞬うめき声がでる。


猛暑日と言う言葉を何回聞いたか解らない今日この頃。


所謂夏真っ盛りである。


会社の中との気温差よりは少ないが身体に負担が掛かるのを感じる歳になってきた。


すでに三十路を過ぎて数年経ってしまっている。


一応エスカレーターを使わずに階段でホームから上がって行くのだからまだ若いと言っていいのだろうか?


改札には同じ電車に乗った人々が殺到している。


学生が夏休みのため、いつもより乗客が少ないような気もする。


ま、朝ほど顕著でもないけどな。


朝はやはり電車の遅れが無くなり実に快適でだ。


それだけ普段は学生が多いということなんだろう。


改札を出て正面に見える本屋を一瞥しつつ左に進み階段を下りるとロータリーが見えてくる。


ここから徒歩で家まで帰るのでバスやタクシーは関係がないのでいつもの道のりを歩き出す。





途中の川を越え20分弱の家路の半分ほどを消化しスーパーを横目に坂を進んでいく。


すると突然困惑した声が聞こえる。


運動不足の身体に答える上り坂に差し掛かったため無意識に下がる目線を上げ、ふと前を見ると神社の前で3人の高校生が何やらジタバタしているのが見える。





「うわっ!なんだこれ!?」


「え?なに?動けない・・・。どうして?」


「ど、どういうことだ?足が、足が抜けない!」





何やってるんだろう?


遠目に見ていたおれは目を細めてそんな感想を頭に浮かべた。


先程からコントの様なものを展開している高校生3人との距離が徐々に縮んでいく。


高校生は、男2人の女1人。


同じ制服っぽいから友達なんだと思われる。


まず目に付いたのは、茶色く染めた短髪で全体的に立てているちょっとやんちゃですって感じの男の子。身長は170半ばでYシャツの胸元がはだけている。


次に黒い髪を肩ぐらいで切りそろえたている可愛い感じの顔をした女の子。女の子としたら普通くらいの身長・・・160弱くらいでスカートの長さは膝上20センチくらいかな。


最後の1人は、サラサラヘアーで爽やかに髪を整えている真面目そうなイケメンで、身長は1人目の男の子よりちょっと高いかな。Yシャツもスラックスも着こなしている感じで清潔感が溢れております。





高校生達の足元を良く見ると足首から先が地面に埋まっている。


その地面はいつもの歩道ではなく、黒い円がそこにあった。


その黒い円は、そこだけ空間が抜き取らた錯覚に陥るような非現実的な印象を受けた。


黒い円の中にいる3人は泥に嵌ったように足を抜こうとしているが、一向に抜ける気配がしない。


それどころか徐々に沈んでいるようで膝下まで黒い地面に埋まっている。


若者の悪ふざけかな?あまり係わらない方が良さそうだな。


おれは黒い円から1メートルくらい離れて、3人と目を合わせないように避けて通ろうとするとその3人から声を掛けられる。





「おい!おやじ!避けてんじゃねえよ!」


「すみません!助けてください!」


「お願いします。手を貸してください。」





助けを求める声に素早く手を差し出すということもせず、おれは困惑しながら3人に顔を向ける。


どうやら既に膝が沈んでおり、3人の顔には焦燥感が溢れていた。





「えーっと・・・それは何をしてるのかな?」





おれは当然の疑問を3人に投げかけた。





「しらねぇよ!こっちが聞きたいわ!」


「ピカッってなんたらガクッと足が埋まっていったんです。」


「地面が光ると黒い円が現れて足が沈みだしたんです。」





マジか?冗談か?おれをからかってるのか?


しかし、爽やか君が居なかったらこの状況ちゃんと説明できる人いなかったんじゃないか?


擬音で説明されても今一つ分かりにくいし、やんちゃ君は論外だ。





「で、それ何なの?」


「だからしらねぇよ!」


「わかりません。」


「謎です・・・。」





判断に迷うな。う~ん。一応手を貸すか・・・。騙されるのも一興かもな。


しぶしぶといった雰囲気をかもしだっしつつ右手を差し出して声を掛ける。





「良く解らんが、手を出して。」





おれが手を伸ばすと太ももの半ばまで沈んだ3人がすごい勢いでおれの手を掴み一斉に引っ張る。


特に身体を鍛えている訳ではないおれが必死な高校生3人を引っ張ることが出来るはずもなく、





「うわっ!」


「くっ!」


「え!?」


「あ!」





結果としては反対におれが3人にダイブする羽目になった。





「く・・・。同時に掴むなよ。ちょっとは考えろ。」


「よわっちいな、おい!さっさとどけよ。」


「うわっ!」





おれはやんちゃ君に跳ね除けられ地面に尻餅を付いてしまう。


そんなおれに残りの2人は謝罪してくる。





「すみません。」


「軽率でした。」


「まぁ、しょうがな・・・え?あれ?立ち上がれない。」





足とお尻と掌から肘までが黒い円と接触していたようでおれも沈み始めていた。





「まじかよ・・・。」


「使えないおやじだな。」


「ああ!もうだめなの・・・。」


「申し訳ない。巻き込んでしまったようですね。」





どんどん沈み行くおれの身体。


おれが高校生達より低い位置にいるので一番最初に全身が飲み込まれることになるだろう。


解せぬ。助けに行ったおれがなんで一番先に沈むんだ・・・。


高校生3人様子は、1人はこっちを睨み、女の子は何かを祈って目を瞑り、もう1人は申し訳なさそうにこっちを見ている。


おれの首から下はもう沈んでいる。


あ~。良く解らない死に方だったな。あれ?これって死ぬのかな?何なのこれは?


おれは疑問を持ちながら現実逃避をしていると目の前が真っ暗になるのを感じた。


すると直ぐにおれの意識が途絶えた。








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