第1話 はじまりの光【覚醒】

           *



 我の意識は今、暗闇のなかにいる。手足を必死に動かしてもがけど、もがけど抜け出す術はない。恐らく現実世界では、気絶してしまっているのであろう。

 しかし、遠くから我を呼ぶ魂がある。その魂は徐々に近づいて来る。

─我を暗闇から引っ張り上げてくれる、この魂は我が何年も待ち望んでいた……希望の子!

 魔女の意識は覚醒した。そして、目の前で呆然としているキノの心臓を躊躇ちゅうちょなく貫く。

「あいつ、まだ……」

 メルは剣を握り、地面を這いずりながら魔女の元へ近づいていく。が、途中で足を止める。正確には足を止めざるを得なかった。

 なぜなら、魔女とは別の禍々しいものを感じたからだ。

「じいちゃんを……俺のたった一人の家族を……。許さない、許さないぞォ……貴様ァ!!」

 そこには、怒りによって覚醒したルーがいた。

 閉ざされていた右目は大きく開かれ赤く光り、体から黒いオーラを垂れ流し、魔女を睨み付ける。

「なんなの、あの姿……まるで魔女じゃない……」

 メルは呆然として呟いた。

「ふはははははははッ……!!やっと、やっとだ……その右目を、我は何百年と待ち焦がれていたのだァ!!」

 魔女は高らかに嗤うと、大きく手を広げルーの元へと歩いていく。

「返せ……返せよ!じいちゃんをッ!!」

「何を返せと言うのだ。その目は元々我のものではないか?」

 魔女はルーの言葉など全然耳に入っていない。ショーケースに入っているトランペットを眺める子供のように、ルーに惹き付けられていく。

「あぁ……やっと手にはいる。我が光……」

 魔女の左手がゆっくりルーへと伸び、頬をなぜる。その時だった。

 魔女の左手は青い血飛沫をあげ、宙へと飛んだ。

「ぐああああぁッ!!」

 間一髪メルが切り落としたのではない。

 魔女のように右手を漆黒の剣に変えたルーが、高速で切り落としたのである。そして今、その右手は魔女の心臓をめがけ、振り上げられている。

「じいちゃんと……同じ苦しみを……味わえェ!!」

「ま……待て!お主は実の母親を殺すのか!?」

 魔女の一言に、ルーは心臓まで、切っ先が一センチメートルのところで剣を止めた。

「今……何て言った!?俺の家族はじいちゃんたった一人だ!死にたくないからって適当なことを言うなァ!!」

「適当などではない。アイム、ユア、マザー……そのままの意味だよ」

 魔女は自ら剣を心臓に突き刺しながら、ルーに近づくと、頬を寄せて耳元でそうささやいた。

ルーの左耳の青いピアスが「パリンッ」と割れる。

「うそだ……うそだァ!」

「嘘などではない。光をものともせず、マザーズにも適合し得る目。それを持つ希望の子おぬしの誕生に、これからは全魔女が貴様を狙うだろう。だが、力が戻るまで我がお主を守ってやる。だから、安心しろ。そして、いつか……」

 魔女はまるで子供に言い聞かせるように、ルーの目を真っ直ぐ見ながら言うと、唇を重ねる。

 すると、魔女は黒い流動体となり、ルーの体の中へと流れ込んでいった。

 暗転。

 ルーは上を向いたまま、気を失ってしまった。


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