第52話 それぞれの道

どんな風に変化を遂げたかと言うと……。



まずは、なんと言っても健太。


な、なんと!健太は日本を飛び立ち、今は海の向こうの国、アメリカで暮らしているんだ。


よっ!インターナショナル!


数々のいろいろなバスケの大会に出場していた健太なんだけど、その腕が見込まれて。


なんと、向こうの有名なチームにスカウトされたんだよ。


今はプロの選手として日々練習に励みながら、オリンピック出場を目指してがんばってるみたい。


草野健太の名が世界的に知れ渡る日も、そう遠くはないだろうーーー。


と、本人がおっしゃってございました。


でも、きっとそうなんだろうね。


だってホントに世界選手になっちゃうんだもん。


健太、すごいよ。


忙しくて帰国できるのもたまにだから、なかなか会えないんだけど。


時々するメールや電話で相変わらず元気そうな様子の健太だよ。


健太のことだから、きっと持ち前の明るさで毎日元気に目一杯がんばってるハズ。


ファイトだ健太!



それから卓。


卓もさ、これまたちゃんと自分の夢を叶えてがんばってるんだよ。


なにをやっているのかと言うと。


ズバリ、教師!


高校で数学の先生やってるんだぜ。


しかも、うちらが卒業した学校で。


卓のヤツ、なかなかのイケメンっぷりで、なにやら女子生徒にモテモテらしいよ。


まぁ、納得だな。



マヤと景子はOL。


上司がイヤだ、カッコイイ人がいないなどなど。


よく愚痴ってるけど、なんだかんだOLライフを楽しんでるようだ。



そしてさとみはなんと、同じ大学で知り合ったひとつ年上の彼と、去年の春にめでたく結婚したんだぜ。


早く結婚したい!ってよく言ってたけど、その希望どおり、あたし達の中でいちばん乗りでお嫁さんになったさとみだよ。


ラブラブで新婚生活を楽しんでるみたいだよ。



でもって、ジン。


ジンは『オレは、カッコイイ夜の男になる!』だかなんだかと宣言して、一生懸命カクテルの勉強してオシャレなお店のバーテンダーとしてがんばってるらしいよ。


話がおもしろいとかで、けっこう若い女の子のお客さん達に人気があるみたい。


まぁ、ジンの場合は顔より笑いでモテてるってカンジだな。


ジンに怒られっかな。


いや、褒め言葉褒め言葉。


今や〝おもしろい〟はモテる男の超重要ポイントだ。


やっぱり笑わせてくれる人の方が、一緒にいて楽しいもんな。



それから有理絵。


有理絵は今、幼稚園の先生やってるんだぜ。


優しくて面倒見のいい有理絵にはピッタリの仕事だよね。


大変だけど、子ども達はカワイイらしく、楽しくやってるみたいだよ。



そして、あたしは服屋の販売員。



あの頃は、25歳の自分なんて想像もつかなかったけど、みんなそれぞれがんばってるよね。


知らないうちに、あたし達は少しずつ大人への階段を上ってきたんだね。


根本的なものは変わってないけど、見た目や環境は大きく変わったな。


みんな、なんだかんだしっかり自分の夢を実現させていたり、自分の選んだ道で今の仕事を一生懸命がんばっていたり。


ちゃんと自分の足で歩いてるもんね。


あたしもそれなりにがんばってるつもり。


最初は、慣れないひとり暮らしでいろいろ大変だったけど、今ではもうすっかりベテランさ。


掃除も洗濯もちゃんとやってるし、料理は……まぁ、そこそこだけど。


ちゃんと生活してる。


有理絵も近くにいるから、今日みたく一緒にご飯を食べたり、泊まったりすることも多いんだ。


他のみんなとも、たまに集まってワイワイしゃべって飲んだりもしてるよ。


きっと、おじいちゃんやおばあちゃんになっても、みんなで集まってお茶とか飲んでおしゃべりしたりするんだろうなぁ。


でも、いつも思うんだ。


こんなステキな仲間がいて、あたしはホントに幸せだなって。


つくづくね。


でも………。


その中に桜庭がいたら。


もっともっと、ステキなのにな……ーーー。



東西線の地下鉄の電車に揺られながら、あたしはぼんやりそんなことを考えていた。


と、その時。


あたしは、ふと誰かの視線を感じたような気がして顔を上げたの。


「?」


斜め左。


電車のドア横にもたれかかって立っているひとりの若い男。


なんとなくさっきからずっとこっちを見ているような気がする。


なにアイツ。


なんかさ、やたらと無駄に人をジロジロ見られるのはあまりいい気がしないよね。


っていうか、イヤだ。


たまに、頭のてっぺんからつま先までじろーっと見てくるおじさんとかおばさんとかいない?


あの男は若者でおじさんではないけど、やっぱりまだこっちを見てやがる。


なんとなく気分の悪いまま、知らんぷりしてつり革につかまっていたんだけど。


ずーっと感じる執拗しつような視線。


あたしの顔になにかついてます?


イヤ、ついてない。


あたしは見せ物じゃないんですけど。


そう思いながらイライラしてたんだけど、もうすぐ有理絵んちの近くの駅に着くから、あたしはそのままぐっと我慢していたんだ。




プシューッ。


駅に着いてドアが開くと、あたしはさっさと車両から降りた。


すると、なんとその男も同じこの駅で降りやがったんだ。


げっ!


なんだか猛烈にイヤな気分のまま、小走りで駆け出すあたし。


その後ろからあたしを追いかけるように小走りで来る謎の男。


あたしは距離を離そうと更にスピードアップして駆け出した。


追ってくる男。


そして、


「あの。ちょっとっ」


ソイツはあたしを呼び止めたんだ。



はっ?


なにコイツ。


地下鉄でナンパ?ストーカー?


あたしは、かなりのムカつきモード全開で後ろを振り返った。


「なんなんですかっ?さっきから!」


あたしが半ばキレ気味に言うと、ソイツがパッと笑顔になってこう言ったんだ。



「やっぱそうだ。立花だろっ?久しぶり!」



え?


誰……?


ポカンとしているあたしの前に歩み寄ってきたソイツが笑った。


「オレだよ、大谷だよっ」


「え?」


大谷・・・ーーーーーー?


よく見ると、確かになんとなく見覚えのあるその笑顔。



ウソ。


大谷っ?


桜庭と一緒にバンドやってた、あの大谷っ?



「ちょっとーーー!大谷でしょーっ!」



あまりの突然の再会に。


あたしは思わず、スットンキョーな声で叫んでしまった。





「ーーーで。なんかずっと見てくるヤツがいて、しかも追いかけてきて。めっちゃうざい!と思ってたら、なんとそれが大谷だったってわけ!もぉ、ビックリ仰天で声が裏返っちゃったよ」


あたしは、有理絵の作ったカレーを頰ばりながら、さっきの出来事を話したの。


大谷と別れたあと、興奮状態で大騒ぎで有理絵んちに駆け込んじゃったよ。


だって、7年ぶりだぜ?


まさかあんなとこで大谷に会うなんて。


ホントに驚いちゃったよ。



大谷の話によると。


地下鉄の車両に乗って、たまたまあたしを見た時から、なんか立花に似てる……って思ってたんだって。


でも、なんせ7年ぶりだから。


間違ってたら困ると思ったらしく、声をかけられなかったらしい。


でも、地下鉄降りた時、やっぱりそうに違いないと思ったらしく、それで思い切って声をかけたんだって。


「そうだよねー。卒業してからは、同じ高校だった人達ともほとんど会わないもんねー。みんなどこでなにやってんのかも知らないし。それが、同じ時間帯の地下鉄で、同じ車両に乗って、同じ駅で降りて7年ぶりの再会だなんて。ホントにすごい偶然。そりゃ、声も裏返るわ」


有理絵も目を丸くしながら大きくうなずいた。


「しかも、この近くに住んでたなんて。もしかしたら、気づかないでどっかで大谷くんとすれ違ってたこともあったのかもー」


「有理絵、目がハートになってるぞ」


「だってー。大谷くん、カッコよかったじゃん」


そういや、高校の時も有理絵ってばそんなこと言って騒いでたな。



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