第11話 謎のパーツ
「おわぁ⁉ 」
何もない場所から全身鏡くらいの大きさをした歪みが出現すると、そこから蒼は放り出された。その後、蒼が出てくるなり歪みは消え、その場に静寂だけが残る。
「え? ここどこ? 」
辺りを見渡すと、そこは薄暗く自分の見たことのない場所だった。外の天気は曇り、薄暗く感じるのはそのせいだろう。正面を見るとそこはボロボロの屋根のない小屋、周りを見れば森が広がる景色。また森の中かよと思いつつも、この後アークがここへ来るんじゃないかと数分待ってみるもアークが来ることは無い。
「ここどこ? 」
さらに数分待ってみるも、やはりアークは来ない。そこまできて蒼はようやくアークが来ないことを悟ると、背中に冷や汗を流し顔を青くする。大きく息を吸い、思いっ切り叫び嘆こうとしたところで、自分の声に気づいた魔物がその辺から飛び出してくる光景が脳裏に浮かんだたため、グッと堪えて歯を食いしばる。
もしかして俺アークを怒らせた? あの時まだ『念話』の最中だったし、もっとやってほしいなんて図々しいこと考えてたのがダメだったの? いやでも、今の状態じゃそう考えちゃうのも仕方ないだろ。ああクソ、やばい……これからどうすればいいんだよ。
元の世界に帰るために行動しようにも衣服と小道具を貰った程度で余りに準備が無さすぎる。その上、今のままでは明日……いや、今日の生活すらもままならないだろう。と、そんな時。
ガオーー‼ キチキチキチ‼ ピーーーー‼
聞いたことのない獣の鳴く音が聞こえてきた。いや、この世界の場合は魔物と言った方がいいのかもしれない。
「流石に、このまま棒立ちはマズいよな。」
今の自分は丸腰で魔物を撃退する力は皆無といってもいい。そんな状態で遭遇しようものなら自分の命は無いだろう。ひとまず、蒼は目の前に見える屋根の無い小屋の中へ身を隠すことに決める。近づいて入り口を探してみると窓は付いておらず、入り口を見つけたと思えば扉は外れて何処かに行ってしまったようで中に入れないという事は無さそうだ。しかし、万が一魔物がいた場合は逃げなきゃいけないため蒼は左右前方を警戒しつつ恐る恐る中へ足を踏み入れていく。中央のテーブルがある場所まで歩いたところでこの場所に危険が無いことを悟ると、蒼は安心して大きく息を吐きテーブルに座った。
「家に帰りたい……。」
蒼はバックからアークから貰った探知器を取り出して反応を確認する。反応は無し。確認のためバックから漫画を取り出してみると、すぐ反応を示して発光したため壊れてはいないようだ。
「これの索敵範囲って、実際どれくらいなんだろうな。」
アークの話では索敵範囲であれば近くに無くとも方角は示してくれるという事だったが、今思えば余りに雑過ぎる性能だ。もし自分の探している物が索敵範囲外にあった場合使い物にならないのは言うまでもない。あの時は考え無しに喜んだりしていたが、冷静になってみればスマホと交換で少し高性能な玩具を貰ったようなものだ。本人曰く製作時間30分らしいし……。そう思うと何だか悲しくなってきた。
「クソッ、何かここにあったりしないか? 」
悲しみを紛らわすためにもテーブルから立ち上がると、蒼は辺りを物色し始める。辺りは屋根の一部と思わしき瓦礫で散らかり、瓦礫を退かしてみても特に使えそうなものは見つからない。
「ここ、誰が何のために使ってたんだろうな。」
今となってはただの廃墟のようなものだが、中を見回った感じ何かの作業場だったように感じた。人が住んでいたにしては中央のテーブルを除けば、他に家具や家具の残骸のような物は見当たらない上に生活するにはスペースが少し狭い。何かの作業場だったならそれに関する何かがあっても良いと思うが、手掛かりになりそうなものは見つからない。
「うーん、何か武器になりそうなものでも見つかれば良かったんだけどなぁ。この森抜けなきゃだし。あーあ。」
ここには何もない。溜息をつき、そう諦めかけてテーブルの上にどっしり座ったところで、蒼は最初に気づかなかった瓦礫の中に瓦礫とは違う四角っぽい何かが紛れていることに気づく。
「あれ? 何かある。」
テーブルから降りて近づいて拾い上げてみると、それは600ページある新書版の漫画くらいの大きさをした何かの装置だった。土埃を被っていて少し汚れていたものの、全体を見る限り壊れている様子は無い。とはいえ、これが何なのか分からないため使い方など見当もつかない。上部と思われる場所には何かを入れるための丸い穴が開いており、そのすぐ隣に左右に動く上部から下部を繋ぐ縦のハンドルがあり、中央には大きく丸い透明なレンズがついていた。そして裏面中央上部付近には逆L字の形をしたフックのようなものもある。
「何かの、パーツ? 」
直感的にそう思えた。ただ、仮にそうだとしてもこれは一部。全て揃えなければ真価は発揮できない。しかし、見つけた物について少し興味が湧いてきた。まだ探していない場所は無かったかとテーブルに座って思考したところで、テーブルの下をまだ見ていなかったことに気づき、降りて下に何かあるか確認してみる。またもや瓦礫だらけな状態だったが、瓦礫の下から冊子が一つはみ出ているのを見つけた。
「もしや? 」
冊子が破れないようゆっくり瓦礫を退かし手で土埃を落として見ると、表紙にこの世界の文字が横並びに羅列されている。おそらく、これがパーツの手掛かりに違いない。ただ一つ気になったのは、表紙一面に黒で大きく太字でバッテンと書かれていたことだ。とりあえず気にせず中身をペラペラと捲ってみると、ページが欠損している部分も無く案外綺麗なものだった。とはいえ……。
「はは、流石に読めないか。」
この世界の言語でびっしりと書かれていたため、当然読める訳が無かった。しかし、絵であれば読めなくとも見れる。その状態でも蒼は見つけた冊子を真剣に読み進めていく。すると、自分が手に持つ物と同じ絵が描かれているページに辿り着いた。
「お、これか。」
ページ右側には上下左右からそれぞれみた図に、左側には各機能の説明について記されていそうな記載のされ方をしていた。そして他に、巻物の形状をしたアイテムの絵についても描かれている。ひょっとすればこれを上部の穴に入れて使うのかもしれない。ただ、この場所を見回った中でそれらしいものは見つからなかったため試すことは出来なさそうだ。さらにページを進めていくと、またもや自分の手に持つ物の絵が描かれたページを見つける。
「へー、これって合体させて使うやつなのか。」
そのページには、手に持つ物をウエストバックのようなもののバックル位置に装着した状態の絵が描かれていた。そしてその次のウエストバックのようなものの絵とそれについての説明が記載されている。そこで、蒼には気になる点があった。
「なんか、似てね? 」
アークから貰った今身に着けているウエストバックと、今見ているページに描かれた絵が酷似しているのだ。これは偶然なのだろうか。一度ウエストバックを外して見比べてみても、ワンタッチ式バックルに彫られた魔方陣のデザインと描かれたバックルに記された魔方陣のデザインも一致している。作った人が同じ人だとするのなら……。
「もし再会することがあればアークに聞いてみるか。」
このウエストバックはアークがくれたもの。ならばこの場所もこのアイテムもアークが関わっていると考えるのは自然だ。とはいえ、聞きたくとも次いつ会えるかは分からないため聞くことが出来ないのだが。次のページを捲ろうとしたところで、蒼は突然表情を歪める。
「なんか焦げ臭いぞ……。」
さっきまで無かった匂いだ。草木の生い茂る匂いの中に突然紛れた燃える匂い。自分の鼻が利く方なため気のせいな筈がない。自分の周りで燃えている物が無いのを確認したため、冊子をバックの中に入れ装置を持ったまま急いで外に出ると、前方から燃え盛る光景が目に映った。
「うぇぇぇええええ⁉ なんで⁉ 山火事⁉ なんで⁉ 」
さっきまで燃えてなかったよな⁉ 何⁉ 火でも扱う魔物がこの森にいるっていうのかよ‼ いや、そんなことよりこの状況はマズい‼
すぐ避難しなきゃ危険な状況だというのにこの場所は初めて来る場所且つ知らない場所で何処へ行けば良いのかが全く分からない。小屋側方面の森はまだ炎に飲まれていないが、そっちに行ったとして無事森を抜けられる保証はない。それどころか、迷って出られなくなれば燃やされなくても死んでしまう。
「クソッ、どうすれ……ば……? 」
蒼が戸惑っていたところで、前方の火の海の向こう側に何かが動いているのが見えた。大きいのが1つ、その前を小さいのがいくつも動いているように見える。何となくそれは、小さいのが大きいのから逃げているようにも思えた。しかし、大きいのが追いかけながら何か動作をするたびに、動く小さいものの数が見る見るうちに減っていく。その様子に、逃げ切るのは無理なんじゃないかと思っていたところで蒼は自分の危うい状況に気づかされる。
「おいおいおいおいおい⁉ 」
その動いて見えるもの達はこちらのいる方向へどんどん近づいてきているではないか。体感、スピードは大体法定速度を守る乗用車と同じくらいに思える。途中で方向転換して自分から離れてくれとも願ったが、一切の迷いもなくこちらへ向かって突っ込んでくる。そして。
「いやこっち来んな‼ 」
激突すると感じたところで、蒼は全力で右へ駆ける。直後。
ガシャン‼
炎を纏った巨大な何かが小屋に突っ込んだ。元々ボロボロだったということもあり小屋はその衝撃で全て倒壊し、更には纏う炎が燃え移りあっという間に炎上してしまった。
「なんだ……コイツ? 」
小屋を破壊した物の正体。それは腕が二本で頭部が無く、ただ代わりに胴部にガパッと開く大きな口のある、全身が石を幾つも組み上げて造られた二足歩行の巨体だった。
「ゴー、レム……? 」
自分の今まで見た創作物の中で一番当てはまるものだとそれだ。燃えるゴーレム……ファイヤーゴーレムといったところだろうか。ファイヤーゴーレムは小屋に突っ込んだ後一度止まってしまった。と、そこで。
『助けて‼ 』
「な⁉ 」
突然、頭の中に直接女の子の声が響いた。頭の中に直接声が響く感覚、覚えがある。この世界の魔法、「念話」だ。ただ、この魔法は魔道具でも使わない限り基本対象者に触れていなければ使えないはずだ。首を振り周りを見回しても自分の周りに誰も人はいない。
一体誰が?
『みんな死んじゃった……。みんな喰われた……残ったの、私だけ。』
『どこだ⁉ 』
『下。』
蒼が慌てて下を見ると、そこには自分の靴に右手を乗せた黄色い毛並の狐のような小さな獣の姿があった。
うっかり異世界に来ただけなんだから、魔法なんて使える訳無いだろ? 天翔登 @zyushitukai
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