ヴィーナスの女たちⅡ リバーボート 【ノーマル版】
ミスター愛妻
ヴィーナスの女たちⅡ リバーボート
第一章 ダイアナの物語 能天気
シャレムのひまわり娘
ネメシスの元領主で、いまは黒の巫女の女官長をしているシルビアさん。
その姪のダイアナさんは、とてつもない困ったチャン……
今日も今日とて、ネメシス城下で騒動を起こし、シルビアさん
の眉間には皺がよるばかり……
しかし、この困った娘、ダイアナさんがさらわれた……
なんとかお転婆ぶりを発揮して、逃げ出したダイアナさんは星空の下、出会ってしまった。
* * * * *
シャレム騎士団領のダイアナさんは、ある意味困った女のようです。
何がというと、あまりに周りの空気に無頓着、良くいえば図太い女なのです。
ネメシス城の主でもある、シャレム騎士団領女官長の立場にあるシルビアさんを、今日も困らせています。
城のメイドさんが、
「シルビア様、ダイアナ様が!」
「今度は何をしでかしたの!」とシルビアさん。
城のメイドさんが、少しばかり云いにくそうに、
「城外で子供たちを集めて、その……レスリングを……」
さすがにシルビアさんも呆れ返りました。
女の身で有りながら、子供相手といえどレスリングなどと……
「ダイアナをここへ呼んできなさい!」とシルビアさん。
ダイアナさんとは、シルビアさんにとっては亡き夫、ネメシス伯爵の姪、シルビアさんにとって義理の姪にあたります。
その姪がお年頃になり始めると、シルビアさんの美しい顔に皺が増えるばかり……
「ダイアナ、何を考えているのですか!」とシルビアさん。
「だって、子供たちが遊ぼうというのですから……」とダイアナさん。
「なぜレスリングなのですか!」とシルビアさん。
「最初は審判をしていたのですが、つい物足りなくなって……」とダイアナさん。
「貴女は女ですよ!物足りなくてレスリングですか!」とシルビアさん。
「……だって……」とダイアナさん。
「だってもへちまも無い!」とシルビアさん。
「反省しなさい、私、亡き夫にあわせる顔がないではありませんか!」とシルビアさん。
「はい……」とダイアナさん。
ダイアナさんが逃げるように部屋を出て行ったあと、シルビアさんのため息は大きい……
「あれでは誰の妻にもなれないわ、誰か婿養子をとりネメシス伯爵家をと思ったのだけど……仕方ないわね」
シルビアさんの部屋から転げるように出てきたダイアナさんは、
「叔母様ったら、なにもあんなに怒らなくても……」
「おや、ダイアナちゃん、また叱られたの?」
声をかけてきたのはネメシスの庶民階級のおばさん達、ダイアナさんは結構、ネメシスの人々には好かれているのです。
「はい、いつものように」
といつものように答えるダイアナさん。
おばさん達は、
「まぁ、これでもお食べよ、シルビア様もダイアナちゃんのことが心配なのよ」
「でも、街中の噂よ、レスリングしていたって、本当なの?」
「楽しそうだったので……」とダイアナさん。
「しかし、レスリングはやり過ぎかもね!」とおばさん達。
「やっぱり?」とダイアナさん。
「一応、お年頃なのだから」とおばさん達。
「お年頃ね……私、誰かの妻になれるのかしら?」
おばさん達に大受けのダイアナさんでした。
おばさん達が、
「ダイアナちゃんほど綺麗だったら、黒の巫女様のご寵愛を受けられるかもしれないわよ」
「そりゃあ脈はあるわね、だってシルビア様の姪だもの」
おばさん達はかしましい、好き勝手な事をいっています。
ダイアナさんが、
「でも義理の姪よ、叔母様はそれは本当に綺麗だけど、私とは血が繋がっていないわ、繋がっていればいいのだけど」
南部の華とまでたたえられているシルビアさんの美貌を思うと、ため息がでるダイアナさんでした。
「私、しばらくおとなしくしなくっちゃ」
「当分お家で謹慎?」とおばさん達。
ダイアナさんは、
「違うわ、当分、街のカフェでお茶をして、女らしいところを叔母様にお見せするの」
次の日から、それなりに着飾ったつもりのダイアナさんが、ネメシスの街中をウロウロ、目立つ事この上なしですがセンスは極悪、お世辞にもネメシスのプリンセスとは思えません。
幾日か何事も無く過ぎましたが、いよいよ今度は警備担当者から苦情が出ます。
「シルビア様、ダイアナ様を何とかしてください、一応はネメシスのご領主の血筋に当たる方、何かあっては遅いのですから」
シルビアさんの顔にまた皺が……
「まったくダイアナのおかげで年をとるわね」
シルビアさんがため息交じりに独り言を漏らし、ダイアナさんを呼ぼうとしていた時、とんでもない事が起こったのでした。
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