第六章 悪逆の道化師
第103話 プレゼンターK
12月14日。
本日はわたくしアーカム・アルドレアの誕生日でございます。
実家では毎年のようにトニースマスと一緒くたにされた誕生日プレゼントをされていました。
ただ、今年は家族と一緒という訳ではないので少々毛色が違う誕生日になりそうです。
ーーカチッ
時刻は5時14分。
数十匹にも及ぶワンコロネッコロたちに餌をあげるところから俺の一日は始まる。
「ほら、今日の配給だ。受け取りな」
数えるのが馬鹿らしくなる程の犬猫たちへ餌を配布していく。
「お、来たな」
「わぉわぉ」
当然のように巨大狼犬のポチもやってきた。
「ん、ポチそれなに持ってるんだ?」
普段通りのモコモコの毛並み。
太い首に巻かれた長すぎるマフラー。
だが、それに加えて今日のポチは口に何かをくわえていた。
加えるとくわえると掛けたのだ。
お分りいただけーー。
「わぉわぉ」
「受け取れと?」
どことなくウキウキした様子のポチの瞳に問いかける。
「わぉ」
これは肯定の「わぉ」だ。
巨犬は人間くさい仕草で頷き、口にくわえた細長い箱を芝生の上にそっと置いた。
箱は鮮やかな藍色で、銀色のリボンで綺麗にラッピングされている。
「長い箱、か」
置かれた箱そっと開ける。
「お、剣、ぇ、てかこれ刀じゃね?」」
「わぉ」
箱の中に入っていたのはなんと刀だった。
片刃の反りのある刀だ。
「すげぇ!」
真っ黒の鞘に収められた刀に手を伸ばす。
「へぇ、ん、あれ、ちょっと重いか?」
鞘を手に取った瞬間、まるで山でも持ち上げようとしているかのような錯覚を得た。
だが、それでも剣圧を上げれば持てるレベルなので良しとする。
刀の柄に手をかけて鞘から引き抜くべく力を込める。
「固って……ッ」
鞘から刀を抜き放つ際にも、みょうな引っ掛かりを感じ再び剣圧を上げることに。
まぁそれなりに本気出せば抜けない事もないので良しとしよう。
引き抜いた刀を吟味して、品定めをする。
刃は1ミクロンも狂い無くただひたすらに真っ直ぐと。
長さは長剣よりかは短めの80センチほど。
刃紋は美しく波打ち黒色の刀身に眩いまでの鋼の銀色の輝きを放っている。
黒と銀色の艶やかなコントラストだ。
「すごいな、この剣」
これほどの物は見たことがない。
タングじいさんには悪いが、この刀の作成者はかの全裸オヤジより上手かもしれない。
きっととんでもない化け物刀匠が想像もつかない手法でこの黒色の金属を鍛え上げたんだ。
そうでなくてはこれほどのモノを作り上げるなんて出来ないに違いない。
「どこでこんな、ん?」
「わぉ」
視線を戻すと、ポチが何かをくわえている事に気がついた。
どうやら箱に同封されていた紙らしい。
「『
「わぉ!」
この世界にはオードーメイドした高級品には作成者と依頼者がそれぞれ名前を付ける習慣がある。
2つ名前があるのは俺が作杖師オズワールに頼んで作ってもらった『
刀身の柄に近い根元部分に視線を向ける。
そこには『
匠がつけた黒い刀の名前でまず間違いなさそうだ。
刀名前にピンときて、鞘や刀の柄に人狼マークがある事に気がついた。
「ほほう、刀の作成者は相当な狼ファンだな」
ニヤリと笑みがこぼれる。
趣味が合いそうだ。
「わぉ!」
「そうか。誕生日プレゼントか。ポチありがとな〜」
なんでポチがこんな物騒なものをプレゼントしてくれるのか、
どうしてこんな大業物を持ってきてくれたのか、
そもそも誰が箱に入れて梱包してくれたのか気になるところではある。
流石に犬の手ではここまで綺麗には包めないはず。
ポチの飼い主さんなのか?
実はものすごいお金持ちだとか?
俺みたいな成金じゃないガチの貴族だったりするのか?
いろいろと想像は膨らむが、とりあえず貰えるものは貰っておこう。
「ちょっと振ってみようかな」
ポチが犬猫を蹴散らしてエサをひと舐めしたところで、俺は素振りをしてみる事にした。
本気で振ったら折れてしまうので十分に手加減はしよう。
ーーヒュッ
「お、あれ、これってもしかして……」
一度素振りして違和感に気づいた。
何か変な感じがする。
ちゃんと刀が付いてくる安心感。
なんとなくだがこの刀なら
ーービュンッ
「おぉ!」
やはり、この刀折れない
素振りしても折れないぞ!
「おっほ、まじか!」
楽しくなって何度も何度も繰り返し素振りする。
こんなに気持ちよく刀を振ったのは久しぶりだ。
どんなに思っ切り振っても折れない折れない。
「へへぇ、こりゃすごいな」
「わぉわぉ!」
「はは、ありがとな!」
ポチのたてがみを思っ切り撫で乱す。
今日は朝からすごいプレゼントを貰ってしまった。
それも犬からである。
珍しい事もあるもんだなぁ〜。
良い一日になる予感するぜ。
ー
ーーレトレシア魔術大学
ポチから貰った狼姫刀を片手に意気揚々と廊下を歩く。
イストジパングのちんちくりんに自慢してやるためだ。
以前から事あるごとに頼み込んであるのに、あのオクハラとかいう小娘は少しも刀を触らせてくれないケチな奴なんだ。
きっと俺が刀を手に入れたと知ったら驚くに違いない。
「こらこらアルドレア、止まりなさい」
「これはこれは、おはようございます、カービィナ先生。今日もお綺麗です」
振り返りざまにおばあちゃん先生へ気持ちのいい挨拶をする。
背後から近づいてくる気配の足取りで、なんとなく話しかけられる予感はしていたので、
気の利いたお世辞もプレゼントだ。
「あら、お上手ですね、おはようございます、アルドレアくん」
「今日は良い日です。雲一つなく空は晴れ渡っている。それなのに風もほとんどない」
口の動くままに気分が良いこと言い並べ立てていく。
「気持ちの良い日なのには賛成ですよ、アルドレア。ですが、だからといってそれはあなたが当たり前のように剣を持ち歩いている事の理由にはなりませんよ?」
「え、あ、ダメなんですか?」
片手に握った刀を持ち上げてみせる。
「ダメに決まっているでしょう。ここは魔術大学です」
カービィナ先生は顎を引き睨みながら、さも当たり前のことを言い聞かせるように指を立てた。
「でも、ほらミヤモトとかオクハラ、あとツヅミじいさんとかみんな刀もってるじゃないですか」
「あなたも知っているでしょう、彼らは特別です」
「僕は特別じゃないと?」
「そうです」
カービィナ先生は呆れた様子で嘆息して手を出してきた。
どういうことだ、まったく。
俺がダメで、なんであのちびっ子は良いんだよ。
「えぇ〜没収、ですか〜?」
「預かるだけですよ。帰る時取りに来なさい」
渋々「
ふと思いとどまる。
「あ、待ってください、これもしかしたらちょっと重いかもしれないです」
俺が剣圧を上げなければ持ち上がらない重さなんだ。
魔力適応でわずかに筋力が上昇してる魔術師といえども、きっと持つのは一苦労するだろう。
それにカービィナ先生はおばあちゃんだ。
労らなくてわいけない。
そう思い、俺は狼姫刀を廊下の壁に立てかけた。
カービィナ先生が刀に手を伸ばす。
「おや、これは、信じられない重さですね……」
心底驚いたような様子で刀を持ち上げるのを諦めたようだ。
先生は首を横に振ってこちらへ視線を向けてきた。
「アルドレアくん、この刀をどこで?」
「その、信じてもらえないかもしれないんですけど。今朝、大きな犬が持ってきてくれたんですよ」
「む、大きな犬……ですか?」
眉をピクリと動かす先生。
なにやら視線を鋭くしてこちらを伺うような様子で見てくる。
なんか変なこと言ったかな……?
「えぇもうそれは大きな犬です。こんな大きくてですね、藍色の毛並みに銀色のたてがみがふわっふわで生えてて、金色の瞳をした狼みたいなワンちゃんなんですよ」
身振り、手振りでカービィナ先生にポチの事を伝える。
「……そうですか。犬、ですか。ふむ」
「えぇ、ワンちゃんです」
先生は困ったような顔をして頭を抱えてしまった。
こちらとしては、俺の話した内容のどこらへんにそんなリアクションを取っているのか気になるところ。
「まぁそうですね。今回は大目に見ましょう。その刀を間違って落としたりしないように。
怪我人が出ますし、学校中にひび割れを作られたらたまりませんからね」
「はは、ありがとうございます」
「もうチャイムが鳴ります。はやく教室へ行きましょう」
カービィナ先生は柔和な笑みを浮かべて先導して歩き出した。
俺も置いていかれないように、狼姫刀を手に取りすぐさま先生の後を追った。
ー
「では、次週はレポートがあります。忘れず提出するように」
本日の純魔力学の授業はこれでお終い。
カティヤさんとの2人きりの時間も今年も残すところあと2回となってしまった。
「あのさ」
「なに」
教科書をしまいながらさり気なく誕生日アピールをするべく話しかける。
誕生日プレゼントなんて高望みはしない。
ただ、ちょっと祝ってもらえれば俺はあと1年は幸せな気持ちで生きる事が出来るんだ。
「その、ほら、あれ」
「?」
カティヤさんは首を傾げ不思議そうに金色の瞳をまん丸にしている。
あぁ自分から誕生日アピールするとか思ったより恥ずかしいな、
なかなか肝心のキーワードを口にできない。
「えぇと、ほら……ほら、あれ、あの、あれだよ、あのハッピーバースデー的なあのーー」
「そういえば、その刀どうしたの」
「え、あ、これ?」
あちゃー話題がズレてーら。
ちんたらと意味のない言葉を並べて、コミュ障をこじらせている場合じゃなかった。
まぁいいか。どうせ誕生日を教えたところで悪口しか返ってこないんだ。
これでよかったんだ。
「アパートによく来る犬が持って来てくれたんだ。その、あれだよ、多分、た、たた、誕生日プレ、ゼント」
「ふーん、良い刀じゃん。どうなの、その、使い心地とかさ」
おぉカティヤさんが興味を示している。
俺の誕生日って部分は完全に無視したけど興味を示している!
実は刀剣ファンだったりするのかな?
カティヤさんは普段より機嫌が良いのか、俺が刀の説明をすると和やかな笑顔で聞いていた。
途中、俺の知らない刀の特徴に何故か気がついたりして説明してくれるあたり、相当な通なのだと判断できる姿が垣間見えた。
これはかなりのオタクだ。
「ほら見て、ここの刃紋は狼のたてがみをイメージして作られてるの」
「……へぇ、そうなんか。よく気がついたな」
「ぇ? まぁ、あたしって目が良いからさ」
刃紋にデザインを仕込むとは並大抵事ではないだろう。
というか、その事に気がつくカティヤさんは流石だ。
「あ、そうだ、あんたって誕生日なんでしょ。今日」
そう言ってカバンから何かを取り出すカティヤさん。
おい、まて、まさか!
「……はい。誕生日プレゼント。贈ってくれる奴なんかどうせいないであろうあんたへの、同情のプレゼントよ」
「これはどうも」
カティヤさんが取り出したのはマフラーだった。
まずい。
嬉しすぎてこの校舎を吹き飛ばしてしまいそうだ。
カティヤさんから誕生日プレゼントを貰えるなんて。
おいおい、待ってくれよ!
もう今日死んでもいいや!
「ぐ、ふはは……っ」
下衆な笑いが出ないように努めて冷静に平静を装ってクールに受け取る。
「へへ、へぇ、人狼マークあんじゃん。良いマフラーだな」
「でしょ? 街の市で買ったんだ」
手編みじゃないのかぁ。
なんかすげぇ下手くそでボサボサの作りだったから、てっきり手編みマフラーかと思っちゃったよ。
「はは、そっか、これ編んだ奴はめちゃくちゃ下手くそだな。よく見たらこのマーク人狼ってよりテゴラックスみたいだし、てっきり手編みかとーー」
ーードグシャ
「うぎぁああ!?」
「もう、知らない。ハッピーバースデッ! あたしもう行くから!」
「う、腕がぉ、ぁ!」
カティヤさんは息をするように俺の腕をへし折るとすぐさま席を立ってしまった。
俺、何か機嫌損ねるような事いったのか。
わからない。
「お、おい、ちょ、ちょっと待てよ! お前の誕生日いつだよ!」
立ち去るカティヤさんへと勇気を振り絞って話しかける。
誕生日プレゼントのお礼という意味なら、自然な流れで俺も誕プレを渡す事ができるはずなんだ。
まだ誕生日が終わっていないのなら、是非ともなにかプレゼントを考えたい。
「同情でも何でも、な、なんか贈って、や、やるりゅゅ……」
語尾が小さくなってしまう自分をなんとも情けなく思う。けれどそれでも何とか言葉にできたはすだ。
恐る恐るカティヤさんの顔を見る。
「今日」
「ぇ?」
「だから、今日なの、あたしの誕生日」
おい、まじかよ、それは聞いてねーぞ。
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