平穏な場所 ~Parallel world~

ある日。アパートに帰ってくると、ぼくの部屋に知らない女の子がいた。


「えっ、きみ誰?」

「しっ! 黙って!!」


驚いて訊ねるぼくを、変てこな服装の女の子はきつい眼で睨んできた。

「黙ってって、ここはぼくの部屋なんだけど」

「いいから! しばらくわたしをかくまって!」

「えっ、それが助けを求める女の子の態度?」

「うるさいわね! こっちも必死なの!」


よく分からないけれど、僕は彼女を部屋に匿うことにした。

いきなり部屋に湧いて出た、不思議な女の子。

ぼくはなんだか、とても大きな事件に巻き込まれそうな予感がした。



お腹がすいていると言うので、石狩鍋を作ってあげた。

「おいしい! 世の中にはこんな食べ物もあったのね!」

熱々の鮭や豆腐を口に運びながら、女の子は目を丸くした。


夜になったので、寝ることにした。

女の子にはベッドを譲ってあげて、ぼくはソファに寝転がった。

「変な事したら許さないからね」

電気を消しながら、彼女は言った。ぼくはもちろん変な事なんてしなかった。


翌朝、ぼくは女の子を部屋に残して職場に向かった。

普通に働いた。

何も事件らしきものは起こらなかった。

夜になってアパートに帰ってきた。

普通に女の子はいた。

その夜は味噌ラーメンを食べた。

女の子は麺の啜り方に不慣れなようだったが、これもおいしいおいしいと言ってペロリとたいらげた。


次の日も、その次の日も、事件らしきものは起こらなかった。

女の子を追う謎の組織がぼくの前に現れたりはしなかったし、彼女に関しての新情報や追加設定もなかった。

ぼくは毎日ただただ平凡に仕事をこなし、部屋では女の子と雑談をして過ごした。


そして、数年が経った。

ぼくと女の子の親密度もかなり高くなり、そろそろ結婚しようかなと思っている。

でも相変わらず追手は現れないし、女の子の素性は謎のままだ。


「ねえ、何も起こらないんだけど。いいのかな、これ」

「まあ、たまにはこういうのもアリなんじゃないの?」

僕が訊ねると、彼女は無責任に答えた。



何だ、この話。怒られないのかな?



ちょっとドキドキしながら、今もぼくと彼女は平穏な毎日を送っている。

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