第35話 もう奪わない
アユラが腕輪を取った。そして、自分の手首に嵌めた。そうしたら、突然倒れてしまった。
その様子に皆が驚いたけれど、私も同じように驚いた。だって、私がエリアスからその腕輪を貰って嵌めた時は、そんな風にはならなかったもの。
それに、透けた人が目の前に見えたってアユラは言ってたけど、それって普通じゃなかったの?色んな場所に普通にいる、透けた人や魔物や動物、それに精霊。皆見えてなかったのかな……?
お父さんと暮らしている頃は、精霊や妖精とかしか見えなかった。あ、でもたまに天に還って行く人間や動物や魔物の姿なんかも見たかな。
動物や魔物は念がそんなに強くはないけれど、人間はとても念が強いから、霊がこの世に残りやすいみたい。だから、街に来た時は何人もさ迷っている霊体を見たんだけど、他の人達には見えてなかったんだ……
エリアスが腕輪をアユラから外して私に返してくれて、私がその腕輪を嵌めるところを皆は食い入るように見ていて、嵌めてもアユラみたいにならなくて平然としているのを、皆はおかしなモノでも見るかのような感じで見る。
皆の感情も同じように、「何で平気なんだ?」「ヤバい子かも知れない」「怖い」「近づいたら何されるか分かないぞ」「これから一緒にいるとか、ヤバいだろ?」とかの、困惑した感情が溢れていた。
アーネを見ると、アーネも怖いものでも見るかのような顔をして私を見ていた。
私、やっぱり普通の人間とは違うのかな。前まで自分は龍だって思ってたくらいだしな……私は普通の人間として生きていって良いのかな……
エリアスは私を見て頭を撫でてニッコリ笑った。私を撫でたエリアスの手首にも私と同じ腕輪がある。そう言えばエリアスの抑えられた力ってなんなんだろう……
食事が終わって皆が畑に行く前に、エリアスは一人一人抱き寄せて頭を撫でてあげて、微笑みながら話しかけていた。そうされている子達は皆嬉しそうで、表情と感情は同じだった。
そんなところを見ていると、何だか悲しい気持ちになってきた。エリアスは私に優しいけど、それは私にだけじゃなくて他の皆にも優しい。けど、それが凄くイヤだと感じる。なんで他の子達もそうやって抱きしめるの?頭を撫でるの?優しく笑うの?なんで私以外の子達にもそうするの?
でもきっとそれは、他の子達が私に向ける感情と同じなんだ。皆がエリアスに特別って思って貰いたいんだ。だから、私を皆が好きにならないんだ……
色んな感情が胸を締め付けるようにしてて、私はその場でただ、下を向いてその感情を抑えることしか出来なかった。
皆が出ていって、それからエリアスと私はオルギアン帝国のエリアスの部屋まで二人でやって来た。皆と離れてエリアスと二人になれたことに凄くホッとした。
そう言えば、前にミーシャにエリアスの寝室にあるアシュリーの絵を見せて貰った事がある。昨日皆が私をアシュリーに似てるって言ってたからもう一度見たくなって、エリアスに言って寝室に入らせて貰う。ベッド脇に置いてある絵を見て、懐かしいような、嬉しいような、でも悲しい気持ちもあったりして、自分でもよく分からない感情が胸を締め付ける。
エリアスは、この人がアシュリーで、私のお母さんだと言った。
私のお母さんは黒龍で、私がその力を奪ったから死んじゃって……
だからこの人は私のお母さんじゃない……と思ってるのに……思わないといけないのに……
何でだろう……この人の事を知ってる気がする。
見れば見るほど、そんな感じがする。
優しく私を守ってくれていた、そんな気がする……
思わずその絵を胸にして、ギュッて抱きしめる。そうしても何の意味もないのは分かるけど、なんだかそうしたくなったんだ。そんな私を、エリアスは絵と一緒に抱きしめてくれる。やっぱりエリアスにそうされると、すごく気持ちが安らぐ……
リビングに戻ると、ゾランとミーシャがやって来た。この二人にも安心できる雰囲気がある。心優しい感情が伝わってくる。
ミーシャが私を別の部屋に連れていった。そこで色んな服を袋から取り出して、いっぱい着せ替えをした。鏡という、自分が映るモノの前で何度も色んな服を着る。着たことのない物ばかりで、肌触りは凄く良いものばかりだし、フワフワした物とかあったり、胸元がヒラヒラしてたりした物もあって、これは何の為にあるのかな?とか思いながら、でも鏡に映る自分がいつもと違うように見えて、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「やっぱり何でも凄く似合う!ボーイッシュなのも良いし、ガーリーなのは言わずもがなよねぇー!もう見てるだけでキュンキュンしちゃうっ!」
「きゅんきゅん?」
「リュカちゃんが可愛いって事よ!やっぱり元が良いと何でも似合うのねー!」
「にあう?」
「えぇ!あ、ほら、これにも着替えてみて!一応ね、ドレスっぽくないのも用意したの。帝城以外に行くこともあると思うから。あ、それと靴もね。リュカちゃんの足の裏、硬いのね。靴は履いて無かったの?」
「くつ?」
「靴って、足に履く物なんだけど……」
「あし、まもののかわ、つけた」
「魔物の皮を履いてたの?脱げたりしなかったのかしら……?」
「たまに、とれた、あし、けがする」
「そうよね?!大丈夫だったのかな?!」
「だいじょうぶ、リュカ、つよい」
「でも、リュカちゃんはまだ幼いのよ……?なのに……」
「ミーシャ、なんで、なく?」
「あ、ううん、ごめんなさいね!あ、そうだ!髪飾りも持ってきたの!サラサラの綺麗な黒髪に栄える色を持ってきたのよ!」
「かみ、エリアスといっしょ」
「そうね。瞳もエリアスさんと一緒で黒くって、とても素敵ね。」
「エリアスとアシュリーは……わたしの……」
「そうよ。リュカのお父さんとお母さん。」
「……でも……わたしは、りゅう、だから……」
「リュカちゃんは人間なのよ?龍になれるかも知れないけど……」
「それは、おとうさんとおかあさんから、うばったから、わたしは、うばってばかり」
「それは……知らなかった事だし、今はその腕輪があるから大丈夫なんでしょう?だからもう奪わなくなったのよね?」
「うん……もう、うばう、いや……」
「ならもう大丈夫ね!もう奪わないもんね?!良かったね!」
「うん……!リュカ、もう、うばわない!」
知らなかったとはいえ、私は今までいっぱい命を奪ってしまった。だけど、もうそんな事はしたくない。私はもう何も奪いたくない。この腕輪があって良かった。これで触れても奪う事はしないから。
一通り着替えが終わって、今日はこれにしましょう!ってミーシャに言われて着た服は、白くてフワフワでヒラヒラした感じの服だった。髪にもミーシャが何かつけてて、足も服と同じ色の靴を履いた。
部屋から出てエリアスのいる場所に戻ると、エリアスも着替えてた。なんか、いつもと違う感じで、なんか良いな、と思った。
エリアスは私を見て、暫く呆然とした感じで動かなかった。どうしたのかな?
「リュカ……やべ……すっげぇ可愛い……」
「そうでしょ?!リュカちゃんは何でも着こなせるんですよ!もう楽しくて!」
「エリアス、ふく、ちがう」
「え?……あぁ、これはオルギアン帝国のSランク冒険者の正装なんだ。っても分かんねぇかな……」
「エリアス、いい、かんじする」
「良い感じ?マジか?!やった……!」
「やっぱりエリアスさんはその正装がよくお似合いです。凄く素敵ですね!」
「すてき?」
「良い感じって事だよ!」
「エリアス、すてき!」
「ありがとな……!リュカも凄く素敵だぞ!」
エリアスがニコニコ笑ってる。それを見てると私も嬉しくなる。エリアスが膝を折って、私と目線を合わせてから優しく抱き寄せる。
「リュカ、俺はこれから仕事に行かないとダメなんだ。ここでミーシャと待っててくんねぇか?」
「エリアス、おしごと?」
「そうなんだ。ミーシャに言葉や字を教えて貰えるんだ。だから……俺が帰って来るまで待てるか……?」
「……うん、リュカ、まってる」
「そ、うか……!良かった!えらいぞ!」
「エリアス、おしごと、リュカ、ここにいる、でも……」
「で、でも?!でもなんだ?!」
「はやく、かえって、きて……」
「あ、あぁ!もちろんだ!すぐに仕事を終わらせて帰って来る!だから良い子で待っててくれな!」
「うん」
エリアスは私をギュッてしてから頭を撫でて、それから私の頬に唇をつけてきた。その感触はフワってしてて柔らかくて……
なんだろう?なんでそうしたのかな?
唇って柔らかいんだな。
不思議そうな感じでいると、エリアスが微笑んだ。それからまた私をギュッてしてから、「じゃあ行ってくる!」と言ってにこやかに手を振って、それからエリアスの周りの空気が歪んで、エリアスが消えていった。
暫くそのままでエリアスの消えた後を見ていると、そんな私の顔をミーシャが不思議そうにマジマジと見つめていた。
「ミーシャ、リュカは今エリアスさんの幻術で顔が変わった感じになってるんだ。」
「そうだったんですね!ビックリしました!リュカちゃんがエリアスさんに似てる感じになっちゃったから!そういう事だったんですねー!」
「げんじゅつ?」
「大丈夫よ、リュカちゃん!じゃあ私のお部屋へ行きましょう!リオもリュカちゃんに会えるの、楽しみにしてるのよ!」
「りお?」
「そう、私達の息子なの。お友達になってくれると嬉しいわ!」
「おともだち、なりたい」
「良かったわ!リオも喜ぶわ!」
エリアスはお仕事でいなくなっちゃったけど、ミーシャがいてくれるならここに残っても不安にならない。だってミーシャとゾランは、言葉も表情も感情も全部が一緒だから。
これからはエリアスがお仕事の時は、私はここにいるのかな?
でも、ここなら安心できそう。
エリアスの家が嫌とかじゃないけど、皆は私を好きになってくれないかも知れないから……
リオってどんな子なのかな?
仲良くなれたら良いな。
友達になれたら良いな。
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