第83話 新たな国

突然浮力が消えた。私は真っ逆さまに落ちてゆく。

このままだと、頭を打ちつけて死ぬ!

暗かった景色がだんだんと明るくなり、下には緑の丘が見えてきた。

私は手足を鳥に変えようとする。

しかし変わることができない。

もしかして、カラ国の中でしか使えない!?

冷静に考えてみたら、ここに音波は届いていないから、姿を変えられるはずがなかった。

これは……死ぬかもしれない。

私は丘に衝突した。


ボヨーン

「ぐえっ!」


変な音が聞こえ、私の体は再び高い位置に上がった。

私はまた落ちた。


ボヨーン

「ぐはぁ!」


先ほどの高さまでではないが、私は高い位置まで上がった。


「おい、雪女!どうにかしてくれ!

俺の腹が壊れちまう!」

「仕方ないねぇ」


私は冷気に包まれた。体が支えられる感覚がして、私は滑り台を滑るように地上に降りてきた。

私は目を白黒させる。

目の前には、腹が大きい緑色の巨人と、水色の着物を着ている女性がいた。女性の服の周りは、透明な氷が被さっており、おしゃれな模様を作っていた。

「突然空から降ってきて、あんた何者だい?」

「え!?えっと……」

寝っ転がっていた巨人が上半身を起こした。

「まあまあ。おらの腹も無事だったし、もういいよ。その子も混乱しているじゃないか」

「でもねぇ。私の子供の遊びを邪魔した罪は重いよ?」

私は女性に顎をくいっと持ち上げられた。

その手は異常なほど冷たい。

「おかあさーん!」

ケケとココくらいの背の女の子が、こちらに走ってきた。女性と同じく、水色のワンピースを着ている。

「可哀想にね。トランポリンで遊んでたのに……」

「大丈夫よ!このお姉ちゃんが降ってきて、とっても高く飛べたから楽しかった!」

女性は女の子の頭をよしよしと撫でた。

「そうかい。そしたらあんたのことは不問としてやるよ」

「にしてもお前さんはどこから来た?

おらの村でお前さんみたいなやつは見なかったぞ」

私は巨人にじっと見られた。驚いたが、試練の時の怪物に比べれば怖くない。それに、敵意が感じられなかった。

「私はカラ国というところから来ました。

あっ、元は日本という国なのですが」

女性は首をかしげた。

「どっちも知らないねぇ。あんた、知ってるかい?」

「いや、おらも知らね」

「あの、敬語は使っても良いんですか?」

「おかしなことを言うねぇ。初対面の人には敬語だろ?まあ、私は敬語を使われなくても気にはしないが」

カラ国の常識とは、随分と違う。

カラ国で感じた違和感もない。

この国は、別のものと考えていいだろう。

「あの、あなた方はどちら様でしょうか?」

私はおずおずと尋ねた。

「ああ、名前を聞くとき、まずはこっちから名乗らなきゃいけないのをすっかり忘れてたよ!

私は雪女。この子は雪子ゆきこさ。

家の主になったら、この子は雪女って名乗れるのさ」

雪女は子供を指差して言った。

「おらは風船男。腹がトランポリンみたいになるんだぁ」

そう言って腹を叩いた。

「えっと……妖怪?」

二人の妖怪は顔を見合わせた。

「当たり前じゃないか。

それで?あんたは何の妖怪だい?」

私は困ってどぎまぎした。

その様子を見て、二人が首をひねる。

雪女の後ろに隠れている雪子も、ちらりとこちらを覗き込んだ。

雪女が思いついたように手を打った。

「もしかして、人の子かい?

こりゃあ珍しい!」

雪女が急に興奮しだした。

私のほっぺを掴んでむにむにといじる。

「特徴も噂通りだ。間違いないねぇ!」

「ほぉー!そうかい!」

風船男が私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「えっと……これは?」

「私達の間ではね、人の子に会えたらラッキーなんだよ。なかなかいないからねぇ」

雪子が珍しそうにこちらを見ている。

「風船男。この子は私が預かるよ。雪子の遊び相手がちょうど欲しかったんだ。

あと……他のやつらにばらすんじゃないよ」

最後の言葉は、念をおしているように感じた。

風船男は頷く。

「ああ、分かってるよ。おらもそこまで馬鹿じゃない」

「何か布はあるかい?」

風船男は近くの小屋をごそごそと探した。

風船男にとって小屋は小さいので、指しか入らず、苦戦をしているようだった。

「あったあった」

風船男は私に茶色の布を被せた。

私よりも大きいサイズで、私はすっぽりと埋まってしまった。

「あらあら、大きいね」

雪女は刃物の形の氷を作り出し、布を切った。

丈はぴったり私に合った。

「うんうん、これで大丈夫。

じゃあ行こうかね」

雪女は私の手を掴んで歩いた。

「あの、これからどこに?」

「私の家だよ。雪子の遊び相手になってやんな」

「お姉ちゃん、よろしくね!」

雪子がにっこりと笑った。

「なんで私に布を?フードみたいになっていて、前が見えずらいのですが……」

雪女は声を潜めて言った。

「人の子はね、高く売れるんだ。種族によっては、栄養価が高い生き物だとみることもある。人の子だとは、あまり言わない方がいい」

私は雪女を疑いの目で見た。

「私はあんたをひどい扱いはしないよ。

落ちるのを助けてやったんだから、少しは信用して欲しいもんだねぇ」


話していたら、雪女の家に着いた。

その家は、氷の中で炎が燃えている、不思議な家だった。


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