第82話 再び

水はきれいに透き通っていた。

トトの全身から、泡が出ている。

泡が水面に登っていく様子が、いやに綺麗だった。

トトは指先や足の先が、徐々に消えていた。

とても痛いようで、トトは歯を食い縛り、目をぎゅっとつぶっている。

私はなぜか溶けはしなかったが、息が出来ず、このままでは窒息死をするだろう。

トトを連れて急いで水から出ようとした。しかし私の腕を、トトは掴んで止めた。

トトの体が消えていく。もう下半身はほとんど消えてしまった。

私は消えていくトトの様子を見るのが苦しかった。

トトは寂しそうに笑った。目で下を指し示しす。

私が下を見ると、金色の鍵があった。トトのお腹があった位置だ。

その鍵からも、泡が出ている。

トトは微笑んだまま消えていく。水中だから、声を出すことも出来ず、私の心は針で刺されているようだった。

トトの体より先に、鍵が水に溶けきった。

瞬間、息ができるようになった。

私はトトがいる場所に手を伸ばす。

胸の辺りまで消えたトトは、首を左右に振った。


トトはこのまま消えるつもりなんだ。

自分のしたことの償いとして。

「ダメだよ、トト。

一緒に行こう!」

鍵が溶けた後は、水中で話すことができた。

「ううん。私はたくさんの人を騙して、殺して……。

私はここで死ぬべきなんだ。そういう運命なんだよ。

助けようとしてくれた茜のこと、私忘れないから……」

バイバイ、と満足そうにトトは言った。


……運命。トトがそういうなら、仕方ないのかもしれない。

トトは人を騙した。人を殺した。

レレさんを……殺した。

それらは許されることじゃない。

でもトトはそれを苦しんでいた。

そして今、死にたがっている。

トトとしては、納得のいく死にかたなんだろう。


でも……でも私は。

「私は! トトに生きてほしいの!」

私はトトを抱きしめて、急いで下へと向かう。

トトが驚いたように体を震わせた。

下に進むと扉があり、開けて扉の向こうへ行くと水圧が弱くなった。

トトの体の崩壊も止まっている。

「私なんかを助けて……」

トトは微笑んでいる。同時に泣いてもいた。

水の中なのに、トトが泣いていることが不思議と分かった。

「茜のバカ……ありがとう。

ごめん……ごめんなさい……」

「……うん」

私たちの体はだんだんと下へ沈んでいった。







私は再び。

深く、深く、落ちてゆく。


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