第41話 階段
扉を出ると閉鎖感のある廊下を挟んで、階段があった。螺旋階段だ。
「床は安全そうね」
ナナはそう言うと階段に足をかけた。
その瞬間、太い針が壁から飛び出してきた。
針はナナの足の周辺を貫く。
幸い、ナナのワンピースに穴が開いただけで、ナナの足は無事だった。
「なっ……!」
ナナは咄嗟に階段から足を離した。すると針は壁の中へと戻っていった。
食堂の試練で生き残った男の参加者が、確かめるようにそっと足をかけた。
針は、男がかけた体重に比例して飛び出してくるようだった。
「なるほど。階段を上るには、針が体に刺さらない程度の体重で上らなくてはならないのか」
男の人は顎に人差し指指をそえて何か考え始めた。おそらく、どうやって上ろうか考えているのだろう。
「仕組みが分かれば上るのは簡単ね!」
「どうするの?」
女の人が聞いた。
「姿を変えればいいのよ!ネズミとか、体重が軽い動物に。楽勝だわ!」
ナナは自信満々な顔をしている。他の人たちも安心したように息をついた。
しかし私は違った。全身の姿を変えることはしたくない。記憶がなくなるのを心配しているからだ。
ナナは深呼吸するとネズミになり、そのまま階段を上がっていった。ネズミは微かにクリームがかっている。動物に変わった後も、纏っている色は関係するようだ。
他の人たちもそれに習う。私は1人で唇を噛んだ。
ほとんどの人が階段を上ってゆき、あとにはケケとココ、そして私だけとなった。
「ココ、頑張るのである」
ケケが心配そうに声をかける。
ココを見ると、大きい動物にはなれているが、小さい動物に変わろうとすると、決まって失敗してしまうらしかった。
「大丈夫?」
「ありがとう、ネネ。でも多分大丈夫」
「ココは今まで、小さい動物に姿を変えたことがないのである。猿みたいに、ヒトと近いものは簡単なのであるが……」
ケケはショボンとしてうつむいた。
「どの大きさだったら変われるの?」
「小さいネズミは無理。でも大きめのネズミにならなれる」
「でも軽く階段に乗せただけで、針が飛び出すのである」
私は階段を見つめて考えた。
ネズミかあ。そういえば、おばあちゃん家にネズミが出て困った時があったな……。
「登るのが無理なら、壁を走ればいいんじゃない? ネズミならできるでしょ?」
「えっ! そんなことできるのであるか?」
「やってみる」
ココはネズミに姿を変える。クマネズミだろうか?確かに、大きいサイズだ。
ココはおそるおそる壁に手をおいて、足を離した。
「できた!」
ココは壁を走った。
よほど嬉しかったのだろうか。ココにしては珍しく、声が大きかった。
「せっかく壁を走れているから、このまま先に行ってるね」
ココはそういうと、急いで壁を走っていった。
「ネネ、感謝するのである」
ケケはそういうとハツカネズミに変わって、階段を上っていった。
さてと、私はどうしようか。
考えたとき、先程ココにしたアドバイスを思い出した。
私も壁を走ればいいのか。
トトのお陰で、私は全身でなければ、自在に姿を変えることができた。
私は手足をヤモリに変えて、慎重に壁を歩いて行った。
『情けは人のためならず』とは、まさにこのことだと思った。
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