第39話 魚料理

魚料理が運ばれてきた。

表面を軽く焼いてある魚にソースがかけられている。ソースはあまりどろどろとしていないものだ。


視点を変えると、同じような風景でも違ったように見えてくる。

私は、入ってきたメイドの中で皿を顔から一番離している人を注意深く見ることにした。

メイド達は一列に並ぶ。

じゃんけんの結果、私は3番目に選ぶことになった。

怪しい皿から離れた皿を選ぶ。

私が怪しんだ皿は、1番端に座っている男性が選んだ。

もしあの人が毒を食べたら、私の仮説は概ね正しいことになる。

残酷な検証方法だ。


一口食べたあと、その男の人が倒れた。

私の仮説は正しかったことになる。

ごめんなさい、と私は心のなかで謝った。

男の人は自分で選んで、自分で毒を食べた。

それは今までと、なんら変わりはない。

でも私の中では、少し、実験対象のように思ってしまったのだ。

そして、ナナ、ケケ、ココに毒入り料理がいかなくて良かったと、ほっとしてしまった。

人が1人死んでいるのに、なんて自分勝手な思考なんだろうか。

私は自分のあさましさに嫌悪感を抱いた。


何か行動をしなければ、ヌヌに毒入り料理がまわってくるのは運に頼ることになる。

私は1つ提案をすることにした。

「2人ずつに分かれて、お互いの料理選ばない?」

参加者達は突然何を言い出すんだと言わんばかりに、一斉にこちらを見た。

「ずっとじゃんけんだと時間がかかるし、1回くらいそんな形式でもいいと思うんだけど……」

参加者の多くは納得していない。

それは当然のことだ。自分の命を他人に預ける

ことになるのだから。

しかし、食堂で初めて会った女性の参加者が賛成してくれた。

「私は1回くらい良いと思うけどな。料理を選ぶ時、すごいストレスだもん。

他人が選んだ料理で死ぬなら、選んだ人を恨めるけど、自分が選んだので死んだら、感情の行き場がないもの」

その言葉の後に、「確かに」「一理あるかも」といった言葉が聞こえてきた。

私はその女性に感謝した。

ペアはじゃんけん形式にして、勝った順に作っていくことになった。

1番最初のじゃんけんでは、ヌヌが勝った。

次で勝たないと、ヌヌとペアになれない。


しかし、私はじゃんけんがめちゃくちゃに弱かった。


ヌヌのペアはケケになった。

私は唇を軽く噛んだ。

ココは隣にいるから耳打ちできるが、ケケは正面に座っているから伝えるすべがない。

そして私はココとペアになった。

ケケがすさまじい表情でこちらを見ている。

ココに毒を食べさせたら、許さないという声が聞こえた気がした。

しかし、しばらくすると、ケケの表情が少しやわらかくなった。

なんとなく隣を見るとココがケケに微笑んでいる。

「何かケケにしたの?」

漠然とした質問をしてみる。

「ケケが私のことが心配だと言ったから、大丈夫だよって伝えただけ」

「え!? 話せるの!?」

「生まれた頃から一緒にいる。距離が離れていても会話ぐらいできる」


私はココを経由してヌヌに毒入り料理を食べされることを思いついた。

けれどこれは、ケケにヌヌを殺させることになる。

私はココに内容を簡潔に話し、ケケに伝えてもらうように頼んだ。


ケケがココに言ったことは以下の内容だ。

『まず、人を殺すことについてであるが、全く問題ないのである! これでココを助けられるなら、なおさらである!

毒入りの皿が分かったら教えて欲しいのである』

私はケケに土下座して謝罪と感謝を叫びたくなった。


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