第35話 前菜

入り口から見て左端にあるドアがガチャリと開いた。

メイド達は食堂に入ってくると目を閉じて前に並ぶ。

目を閉じたのは公平さを意識してのことだろうか。

「前菜」

最初に食堂に入ってきたメイドが言った。

「好きなものを選んで」


そういえば、選ぶ順番ってどうやって決めるんだろうか?

参加者全員が同じ疑問を持ったようで、お互いの様子をチラ見して、そわそわし出した。

様子を見かねて、この試練に参加させられたメイド、ヌヌが口を開いた。

「公平にじゃんけんで決めたらどう?」

その提案にみんな賛成した。

「じゃんけんぽいっ。あいこでー……」

どの料理を選ぶかによって、命運が決まる。

つまり、選ぶ順番が自分の命を左右することになる。

命がけのじゃんけんが始まった。


結果、私は一番最後に選ぶことになった。

まさか全敗するとは……。

5回負けた辺りでちょっとまずいな、とは思った。

でも、まさか最後に余ったものを選ぶなんて。

まあ、「余り物には福がある」というし……。

私は優柔不断だから、選ぶ手間が省けて良かったと思うことにしよう。そうしよう。


それぞれが自分の好きな皿を選んでいった。

指名された皿を持ったメイドは、料理を参加者の前に置くと、食堂から出ていった。

数分後、参加者全員の前には前菜が置かれていた。

前菜は「鶏レバーのムース」。

ヌヌは食べるように指示した。


食器を持つ手が落ち着きなく震える。

なかなか口まで持っていけない。

これを食べたら死ぬかもしれない。

この毒は苦しいのかな。きっと苦しいよね……。

私よりも前に食べた人がほっとした表情をしている。あの人は大丈夫だったんだ。

自分のものが毒入りだという可能性が上がる。

私が食べない間にどんどん焦りが募っていく。

このままでは埒が明かない。

私は勢いよく口のなかに放り込んだ。


鶏レバーのムースは思っていたよりもおいしかった。クリーミーで優しい味わいだ。それだけだった。毒は入っていない。

良かったあ。

やっと息が出来た気がした。


「あっ……かっ……」

苦しそうに息をしているのは、先ほど、食堂に後から入ってきた男の人だ。

毒入り料理をまず食べてしまったのは、彼だった。

男は口から泡を吹くと体の側面から床に落ちた。

参加者は青ざめる。

ヌヌは慣れているようで、特に反応はしなかった。

自分がこうなる未来を想像した。恐ろしくて仕方がない。

どうにかして生き残りたい。

何か方法はないのか。さっきみたいにルールの穴を探すんだ。


そんなことを考えている間に、次の料理が入ってきた。








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