第403話時代和菓子試食会(3)

和菓子試食は戦国期に入った。


佐藤の説明が続く。

「まず相当の変革をもたらす事件が発生しました」

「いわゆる大航海時代、貿易やキリスト教布教のためにポルトガルなどから商人や宣教師が来日し始めました」

「彼らは同時に西洋の菓子文化も持ち込みました」

「例えば、皆様もおなじみのカステラ」

「それまでは宗教的な禁忌があって、日本人は鶏卵を食べることはありませんでした」

「和菓子はそもそも、植物由来の原料で作られていて、鶏卵を使ったカステラなどは、想定外極まります」

「それに加えて、南蛮貿易のポルトガル船から、ついに砂糖が継続的に輸入され始めましたのも、大きな変革」

「その砂糖から、これもポルトガル人から教わった金平糖も作られ、大人気となります」


試食会会場には、カステラと金平糖が配られる。

やはり、今まで配られた和菓子とは異なる雰囲気。


大旦那

「当時の日本人も驚いたと思うな、鶏卵を使うとは」

「ただ、上手いと思った、だから今でも残っている」


五月

「このしっとりとしたカステラ、それは人気が出ると思います」


「やはり、味にコクがあるし、砂糖も多くなって食べやすかったのかな」


麗は、カステラより、金平糖に興味を示す。

「どこかの本で読んだけれど、織田信長が金平糖を好んだとか」


講師佐藤が、それにはうれしそうな顔。

「金平糖は16世紀中頃に、ポルトガルからもたらされた異国の品々のひとつで、中でもひときわ美しく人々の目を引いたお菓子とのこと」

「織田信長も宣教師から贈られ、その形と味にたいそう驚き、何度も取り寄せたそうです」

「当然、当時はとても珍しく、公家や高級武士しか口にすることが出来ない貴重な品で、製造法はいっさい秘密でした」


大旦那

「そうなると、信長公が京都に滞在している時とか、我が九条の先祖も食べたかもしれん」

「それも、蔵でも調べれば日記の中に記録があるかな」


麗が大旦那の言葉に反応した。

「いつかは、調べてみたいとは思うのですが」

「何しろ調べ始めると、時間がかかりそうで」


大旦那が苦笑い。

「ああ、わしも、一度やろうと思うたけど」

「何しろ、膨大な先代からの日記でな」

「千年を超える九条家の蔵やし、半端ではない」

「それも崩し文字や、まず簡単には読めん」


それでも麗は思った。

「日記を全て読むのは困難、どれだけ時間がかかるか、わからない」

「しかし、もしかすると蔵に、和菓子製法の本が、あるかもしれない」

「それを探し出して、写本を作って、古文専門家に解読、現代語訳依頼」

「そして、資料の一環として、和菓子職人に提供」

「また、一般販売も考えてもいいかもしれない」


そんなことで、麗の頭の中には、また大きな課題、「九条家の蔵探索」が発生している。


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