第381話麗の申し出

しばらく泣いていた鈴村八重子は、麗の手をキュッと握り、また話し出す。

「ほんと辛くて・・・」

「寂しくて、悲しくて」

「何度も由美の後を追おうと思うたけど」


鈴村八重子は、ハンカチで涙をぬぐう。

「この写真を見るたび」

「もう一度、麗に逢いたい」

「抱っこしたいと思うて」


大旦那に少し目をやり、続ける。

「きっといつか、何とかするとおっしゃられ」

「いつも多大なご厚情を」


大旦那は、目を閉じたまま。

その目尻に涙が見える。


鈴村八重子の声が、少しずつ、力を増す。

「理不尽や、それをとうに超えとると、思いました」

「けど・・・麗ちゃんは、まだどこかで生きとる」

「見るまではと思い、たとえどんな形でも」

「できれば、この写真を渡したいと」

「そうしないと・・・由美に申し訳ないと」


麗が口を開いた。

「ばあさま」

大旦那も五月も見たことのない微笑。


「大丈夫、もう、大丈夫」

「これからは、何も心配いらない」

言葉は、はっきりと大きめ。


祖母八重子の手を握る力も強め。

八重子は、瞳に涙をため、頷く。

「そうね、これからや」

「麗ちゃん、ええ子や」


麗は、続けた。

「ばあ様の家に行ってもいい?」


八重子には予想外だったらしく、目を見開く。


麗は少し頭を下げる。

「ご仏壇とお墓参りにも」


八重子が再び目頭を押さえるけれど、麗は続ける。

「一度、ばあ様の家に泊まらせて」

「いろいろ、お話をしたくて」


八重子は、また目を開けられない。

明けようにもうれし涙があふれて、とても無理。

その涙を、麗が自分のハンカチで拭く。


八重子は、しばらくして、ようやく答えた。

「はい、いつでも」

「でも、麗ちゃん、忙しゅうない?」

「ゆっくり話したいから、もう少し時間が空いた時に」


麗は間髪を入れない。

「ごめんなさい、今夜は来客があるので、来週の土曜日」

「いいかな、ばあ様」


その麗の速さに、八重子は満面の笑顔。

「待っとるよ、麗ちゃん」

「はぁ・・・これでまた生きる希望が」


麗は、見たこともないはっきりとした笑顔で、八重子の手を握り返している。

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