第374話お世話係たちの思い

麗と涼香が風呂を出て約30分後、葉子からの連絡が入った。

葉子

「お待たせいたしました、資料の原案を作成いたしました」

「問題等、ありましたらご指摘を願います」

麗は、何とも早いと思いながら、葉子作成の会議資料を確認。


麗は作業の早さに感謝しながらも、やはり慎重。

少々の手直しが必要と考える。

「ありがとうございます、ほぼ完璧に出来ています」

「後は、数点、土曜日に私が手直しをして、間に合うかと」


葉子は、その手直しが気になった。

「いえ・・・あの・・・具体的に指摘していただければ、こちらで」


麗は、少々ためらったけれど、数点を指摘。

「大旦那が見られることもあるので、字のポイントを大きめに」

「事務局用の会議資料には、それぞれの検討項目につき、予想される課題と現在考えている対応策を書いておく、会議をできるだけ円滑に終わらせるため」

「少し時間がかかるかもしれないので、土曜日の夜、銀行の直美さんとの話を終えた後に、私が作業します」

「事務局以外の会議出席者のほうの資料には、項目ごとにメモ欄を、出来れば罫線を引いて」


葉子は、麗の細かさに驚くけれど、作業そのものが面白くなった。

「わかりました、さすがです、麗様」

「資料に罫線付きのメモ欄は、すぐにできます」

「事務局用の会議資料については、土曜日の夜、私も参加したいのですが」

「検討項目ごとの、予想される課題と対応策・・・私も考えたくなりました」


麗は、この申し出には遠慮が難しい。

「わかりました、それではそのように」とシンプルに返すけれど、葉子の話は続く。


葉子

「麗様、お世話係たちも、予想される課題と対応策、いろいろ話し合ってみます」

「それをまとめて、麗様にお見せします」


麗は、驚いた。

「それは・・・皆さん、忙しいのに・・・大丈夫ですか?」

「無理はしないように」


しかし、葉子は明るい声。

「いやいや、みんな参加しとうて、仕方ないんです」

「普段の仕事と、違う頭を使うので、面白い気分転換になります」


麗と葉子の話は、それで終わった。


涼香が、含み笑い。

「麗様、これでお世話係たち、毎晩大騒ぎです」

「あれやこれやと話し合って、わいわいがやがや」


麗は、それでも不安。

「ありがたいとは思うのですが、本当に負担ではないのかなと」


涼香は首を横に振る。

「そんなこと、ありません」

「麗様のお役に立ち、九条のお役に立ち、京のお役にも立てる」

「ほんま、やりがいが、あります」


ようやく落ち着いた麗は、話題を切り替える。

「涼香さん、明日の午後、横浜に」


涼香は、本当にうれしそうな顔。

「はぁ・・・指折り待ちました」

「山下公園、中華街、元町、山手・・・」

「赤レンガ、みなとみらい、行きたいところばかりで」


麗は、素直に喜ぶ涼香や、懸命に自分に協力しようとするお世話係たちに対して、本当にありがたいし、頼りになると思う。

「この人たちの顔を、暗くすることはできない」

「上手に仲良く、つきあうのがいいのかな」

「そうなると、最初の晩、葉子さんの湯女を拒絶したのは、いかにも狭量だった」

「しっかり顔を立ててフォローしないと」


そこまで考え、麗は、来週のお世話係を、葉子に頼むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る