第187話昼食後、麗は当惑 九条財団の葵が訪問。

荷物の搬入も一旦終了、昼食となった。

京都九条家から持ち込んだ食材で、直美が最初に作った料理は、パルマ風パスタと生ハムのサラダ、そしてアールグレイ茶。


直美は、不安な顔で麗を見る。

「麗様、あの・・・いかがでしょうか」

「お口に合わなければ、作り直しますが」


麗は、驚いたように、首を横に振る。

「いや・・・美味しい」

「トマトソースが爽やかで、パスタの茹で加減も最適、パスタそのものが美味しい」

「生ハムも、パルマの本物、歴史の深さを感じます」

「野菜も新鮮、京野菜ですね、それも今日の朝採りのようで」

「アールグレイもさっぱりとして、美味しい」


その麗の食が進むのを見て、直美は胸をなでおろす。

「はぁ・・・ありがたいことで」

「本当に落ち着きました」

「麗様は、味覚も抜群なので」


麗は、その答えには、ためらった。

「いえ、それほど気をつかわないでかまいません」

「直美さんの料理が、美味しいので」

「こんな忙しく都内に初めて出たばかりで、これほど手際よく美味しいお昼を」

と、出来るだけ穏便な答えを返す。


直美は、麗の言葉に、顔を真っ赤にするけれど、麗はそれ以上は話さず、食事を終えた。


「午後は、京都から搬入した荷物などの整理をしてください」

「私は、大学に提出する英語の課題の再点検をします」


直美は、麗に頭を下げた。

「了解いたしました。それでは、御用がありましたら、何なりとお申し付けください」

それでも、少し物足りなかったらしい。

「麗様、もう一度」と、麗を一瞬だけ抱きしめ、荷物の整理に取り掛かった。


その後、麗は自室に入り、英語の提出課題を再点検しながら、当惑が消えない。

「何と、神経を使うことか」

「一人のほうが、よほど気楽だ」

「やむを得ない状況で、お世話係を受けるしかなかったけれど」

「食事は確かに美味しかった、技術もセンスも高い、さすが九条家だ」

「直美さんも、真面目で必死だ」

「悪い人ではない、将来大切にすべき、縁の深い人だ」

「それが、他にも何人かいると・・・俺も難しい、いや俺の方が難しい」

「ベッドがダブルベッドで・・・一緒に寝るということか」

「毎週、別の女性・・・どうすればいい、どうしたらいいか、わからない」



麗は、必死に当惑を鎮めて、客観的に考えようと思う。

「つまり、九条家としては、面子を保ちたい」

「後継者を確実にするのも、そのため」

「その後継者が俺だった、そして確実を高めるためにお世話係を付ける」

「女性と同室なのは・・・いや、ダブルベッドで共寝は何の意味か」

「九条家と関係のある家の女性であるなら、肉体関係が出来ても問題がないということか」

「肉体関係を逆に求められている?直美さんも、俺にはよく抱きついて来る」

「下手に見知らぬ家の女に手を出させない、そんな危険防止の意味も込められているのかもしれない」


麗が、そんなことを考えている時だった。

アパートのチャイムが鳴った。

直美がインタフォン越しに、応対をした後、麗の部屋をノックした。

直美

「麗様、九条文化財団の葵様がお見えです」


麗は、驚いた。

まさか、都内に戻った当日に、来客があるとは思っていなかったから。

しかし、九条文化財団の葵とは、同じ大学の同級生ということも、先日の面会で知った。

それに文化財団では、協力して仕事をするように、大旦那からも指示されている。

「わかりました、リビングにて対応します」


「全く面倒だ、休む間もない、考える間もない」

「人ばかりが寄って来る」

麗は、言葉には出さない。

しかし、リビングに向かう足取りには、実に重いものがある。

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