第25話 新シーズン

暖かい日差しと少し冷たい風が吹く春らしい季節

新学期、新年度、そして新シーズン


俺にも、そしてサヤにも新しい風が吹く



「って、ねぇ?聞いてる???」


そう言いながらサヤがボードに挟んだプリントを持ちながら俺の顔を覗き込んでいる


お、おん、この後だろ?

わかってるよ


「嘘だ、絶対ぼーっとしてたじゃん!」


チームシャツを着て、ヘッドホンを首にかけたサヤに頬をつままれた


まさかこんな事になるとはな



~2ヶ月前~


今日はサヤにお知らせがあります!!


「え?なにー?」


そう言いながら俺の横に座ったサヤにネットの記事を見せた


「20××年 全日本ロード選手権に元motoGPチャンピオン 杉村晴樹 Team △△からフル参戦決定」



サヤはしばらく黙っていた


また泣いてたり?と思いながら顔を覗くと笑いだした


な、なんで笑ってんだよ!


俺がそう聞くと俺のスマホをいじり、俺に画面を見せた


なに?Team △△スタッフ?

監督 杉村俊信

ライダー 杉村晴樹

………………………

ライダーマネージャー 渡辺沙耶

っておいおいおい!!


は?


俺がサヤに視線を戻すとまだ笑っていた


「知ってたよ復帰するの、ちょっと大人げないけど、モデルしてた時のコネ使って雇って貰っちゃった」




まぁてな訳でこうなった


親父が監督で彼女がマネージャー


すごくやりづらい…が

そうも言ってられない


俺だって復帰出来たのも奇跡みたいなものだ


過去の実績だけで通用するほど甘くない世界

来年の乗るマシンなんて今年の成績次第では無くなる訳だし


「ハルキ、もうすぐ予選だが、あんまり気を張るなよ、落ち着いていけよ、さっきのフリー走行の感じなら、予選通過は硬い。いつものライディングでいってこい」


マシンに跨りコースに出る


国内のコースはほとんど走ったことがない

今朝の走行で1時間弱走った程度、

それでレースがダメでした…


では世界チャンピオンは終われない

対応力の早さ順応力の早さが大事だ


時間は15分 走れるのは8周程度

その中でベストを出さなければいけない


不安要素はあるが要所要所でベストを尽くせば難しい話ではない。


チームには予選中は順位とタイムは知らさないでくれと伝えた



走り終えてピットに帰る


自己採点的には結構良かった…がどうか


マシンから降り、ヘルメットを外し親父の所へ行く


どうだった?


「まぁこんなもんか、18台中2位だ、1位とは0.21秒差だな。決勝でベストタイム付近で周回出来ればひょっとするかもな」


2位か…ブランクの時間と色んな不安要素を考えれば上出来かもしれない

グローブを外し、椅子に腰かける


「おかえり!」


そう言いながらサヤが、お茶を持ってきてくれた


ありがと。


「ん?なんか浮かない顔してるねー、調子は良さそうに見えたけど?」


まぁまぁかな?この後のスケジュールなんだっけ


「ん?あーえっとね、この後10分後にピットの前でファンサービス、それが終わったらメディア取材、その後にメカニックとミーティング1時間の休憩を挟んで決勝レースだね」


了解。ちょっと着替えるからツナギ干してくれないかな?


「うん!わかった」


着替えてツナギをサヤに渡す


ビットの前には机と椅子が用意されている


サインをしたり写真を撮ったりする


ファンが持ってくる写真や、グッズは世界選手権の時のものが多かった。

みんなの「おかえりなさい」がとても嬉しかった


走る理由なんて沢山あるけどやっぱり

誰かのためでもいいのかなと思う


それが終わると直ぐにピット裏に戻り取材


俺は特にネタだらけなので、メディアが多い


サヤが質問する記者を整理する


今年の目標は?

今年のマシンの感触は?

全日本の雰囲気は?

父親とのチーム内での関係は?


「はい!すいませーん!もう時間なので」


サヤがそう言いながら俺をピット中に連れて帰る


メカニックとマシンの感触、各種のセッティングについて話す


もう頭の中はオーバーヒート気味だ


メカニックと別れ、タオルを手に取り汗をふく


後ろから誰かに肩を叩かれた


振り返ると親父がニヤニヤしながら立っていた


なに?そんな顔して


「休憩行ってこい、012室俺たちの控え室だから、昼ごはんも、もう用意してある」


そう言いながら鍵を渡された


おん、ありがと

そう言って立ち去ろうとすると

親父が俺に耳打ちした


「バレねぇように時間差でサヤちゃん行かせるから」


俺は顔が熱くなった


恥ずかしくなり親父から顔を背ける


親父を背にしながら部屋に向かった


部屋に入ると親父と俺のキャリーバッグと荷物が置いてあり、机と座布団があり、机の上に弁当が2つ置いてあった


親父、最初からその気だったんだろ絶対


少し暑いのでエアコンのスイッチを入れる、


座布団に座り、弁当に手を伸ばす

…が、お茶を忘れた


もう一度立ち上がり、扉に向かう


ガチャ


すると扉が勢いよく開いた


「あっついね、ん?どこ行くの?」


お茶を2本抱えたサヤが入ってきた


いや、もう出る用事無くなった、お茶取りに行こうと思って


「あーそうなんだ、机の上にあったから持ってきたよ」


あー、ありがとう


飲みかけのペットボトルを受け取り、勢いよく飲み干した


「あ、待って」


ん?

サヤが持っているペットボトルを見ながら俺に言った


「それ、サヤのお茶だった」


俺はペットボトルのフタを見た


カタカナのサに〇がしてある


悪ぃ、飲んじまった


俺買ってくるわ


「違う、そうじゃなくて」


ん?なに?


「なんかさ、やっぱり、隠しとかないといけないって難しいよね、意識しちゃうと今みたいなのでもなんか…」


珍しく顔を赤くしながら照れていた


なんだ、珍しいな、間接だろ?いつも直接しても照れないのに


「だから、意識しちゃうとこういうのでも、ダメなんだって、忙しいからやっぱりあんまり話せないし、いつもみたいなこと出来ないからソワソワしちゃって」


俺は立ち上がり、下を向いて立つサヤにキスをした


「ちょ、ちょっと、なんで、」


なんでってしたかったんじゃねえのか

笑いながら答えると


サヤがキスをしようとしてきた


サヤはダメだ、今は1回だけ、今日のレースが終わったらな?


サヤのキスをかわして、代わりに抱きしめてそう言った


俺が離れるとサヤは

「ばーか、もうしてあげないもんね、ほら、早くお茶買いに行くよ」


真っ赤な顔をしながらそう言って扉を開けた

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