episode13 大人のアジフライを、次も家族と
第20話
「それは、
「うん」
対する翠子も、下げていた頭を上げて、
「翠子。分かってると思うけど、あんたに大切なお客様がいるように、うちにも大切なお客様がいるんだよ。『たまき』の人手は足りてるって言っても、今も昔もギリギリで回してるんだから。私と
率直な回答を聞いた果澄は、つい口を開きかけたが、きゅっと唇を引き結ぶ。翠子の
「もっともだと思う。あたしの
「子どもの件で僕たちを
「それじゃあ、前向きに考えてもらえないかな?」
「青磁さん、期待を持たせないの。あなただって、翠子の仕事に関しては、私と同意見なんだから」
珠季が、呆れた口調で言った。強い言葉選びに反して、声のトーンは柔らかかったが、続いて告げられた言葉は、先ほどの台詞と同様に、なかなか
「そのヘルプ、産後の少しの間だけじゃ足りないよ。あんたは体力があるほうだと思うけど、自分を
「もちろん、
行政の支援、保育園という言葉が、果澄の背筋を正させた。翠子は、出産後の生活について、しっかりと考えを
「つもりって、あんたは言うけどね……」
「育児が始まれば、事前の準備だけじゃカバーできなくて、思い通りにいかないことが、たくさん出てくるよ。ただでさえ大変なのに、あんたはシングルマザー。果澄ちゃんを従業員に
言葉を切った珠季は、翠子の目を見て、はっきりと言った。
「いざというときに、翠子のそばには家族がいない。他人しか周りにいないって現実は、変わらない。そのことで、困ることだって出てくるよ」
果澄は、息を
「家族なら、いるよ」
自信に満ち
「ここに、今も。そうでしょ?」
厨房で、青磁が笑い声を立てた。のどかな口調で「翠子の口が
「前にも言ったけどさ、うちに帰っておいでよ」
びっくりした果澄は、翠子を見上げた。翠子は、特に驚いた様子はなく、
――『あたしの生き方を心配してるのは、清貴さんだけじゃないから』
喫茶店でカツサンドを食べた早朝に、翠子が
「白状するけどさ、『たまき』の忙しさに関しては、本当のことだけど、
厨房から出てきた青磁も「喫茶店を手放したくない気持ちは、よく分かるよ」と言って、二人の会話に加わった。手には、翠子の昼食を
「僕たちだって、大衆食堂を立ち上げて、暖簾を守り続けてきた人間だし、翠子がお店を一から作ってきた姿だって、見ているからね」
青磁からトレイを受け取った珠季は、娘に向き直って「翠子が東京で暮らす限り、あんたの身に何かあったとき、私たちはすぐに駆けつけられない。でも」と言い募る。
「ここなら助けられる。子どものことだって、一緒に育てていけるでしょ?」
「ゆくゆくは、翠子が食堂を
青磁が、そう付け足して苦笑した。申し訳なさが
「さ、いつまでも立ってないで、座りなさい。果澄ちゃん、ごめんね。うちの話に巻き込んじゃって。冷めないうちに食べてね」
「あ……はい」
我に返った果澄が、スプーンを
「ありがとう。いただきます」
生き方を否定されても、翠子が
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