第三章 旅立ちの日に
12. 旅立ちの日に
♤
いつもの朝である。
歩道は制服姿の男女で溢れている。城東高校の前を走る通りは車の往来が多いから、通学時間帯の歩道はいつも犇めき合っている。
来週には九月が終わる。いつもの朝がもうすぐ終わる。
いや、終わらせる。自分で決めたことだ。暦が進むのとは訳が違う。
先週、学校帰りにマクドナルドで話して以来、
先週の金曜日が
嘘だ。会おうと思えば会えた。隣のクラスなのだから。ただ会いに行く理由が見つからなかっただけだ。
俺と天城との間には、何度か話をしたという以上の関係性はない。最後の登校日なのだ。天城は縁の深い同級生と別れを惜しみ合うのに忙しいに決まっている。俺にその時間を奪う権利はない。どうせ俺から出てくるのは相槌ばかりだ。
校門が近づくと人の流れが滞るようになった。珍しい。いつも道は混み合っているが、秩序が失われるようなことは滅多にない。基本、城東生は行儀がよい。今日は何かあったのか。
答えは校門に立っていた。
観音開きの門扉が合わさるところ、道の中央に生徒が立っている。小柄で茶髪な女子生徒。確か、隣のクラスの
吉奈は仁王立ちで登校する生徒たちを一人一人睨みつけている。誰かを待ち構えているのだろうか。
と、その吉奈と目が合った。
「
吉奈は犬にするように言いつけた。思わず立ち止まる。
吉奈はスマホを耳に当て「捕まえた。回収早く」と通話先に鋭い声で指示を飛ばし、それから大股で俺に歩み寄った。
「……」
無言で睨みつけるのはやめてほしい。思わず目を逸らすと、周囲から視線が投げつけられているのに気づいてしまった。何がどうして俺はこんな状況に陥っているのか。
背後で車の停まる気配がした。こっそり覗き見る。黒塗りの車体。上には黄色いランプ。タクシーだ。後部座席のドアが開く。
と、不意に肩を押された。
「ほら、早く。手間かけさせないでよ」
吉奈は叱りつけるようにそう言いながら俺の背中を押した。いきなりのことによろめきはしたが、すぐに踏ん張り立ち止まる。吉奈は背も低いし力も弱い。
「待った。ちょっと待った。これは一体、」
俺の抗議は舌打ちと足蹴で遮られた。千鳥足で車道に歩み出で、タクシーのドアに手を掛けると、今度は中から手が伸びてきた。シャツを掴まれ、車中に引き摺り込まれる。
「ちゃんと座ってね。危ないから」
ショートカットの女子生徒が屈託のない笑みを俺に向けている。その顔には見覚えがあった。隣のクラスの
「もっと詰めなさいよ」
左手から吉奈が体ごと突っ込んでくる。「ぎゃあ」という河津の悲鳴に構う素振りさえ見せず吉奈は俺を押し込み、そして勢いよくドアを閉めた。
「……あのう」
運転席から、初老の女性が怪訝な顔を覗かせている。
「出して」
「
吉奈の高圧的な指示と河津の間延びしたお願いに、運転手は「えーと」と唸りながらもアクセルを踏んだ。
一体全体何がどうなっているのか、俺にはまるで理解できなかった。
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