11. 氷解

「そうして私たちは袂を分かちました。ふと廊下で出逢い、偶さか目的地が同じであった。それだけのことなのです。十分にも満たないような道のりでしたでしょう」


 先ほどから吉奈さんと河津さんは黙りこくっています。


「詰まらぬ事を滔々と述べ立て、お時間を空費させてしまいました。申し訳ありません。お二人にはどうしても、」


「天ちゃん」と、河津さんが私の言葉を遮りました。


「違うよ。詰まんなくなんかないよ。そんなことより……」


「何で言わなかったの」


 中途で言葉を失った河津さんの後を、吉奈さんが引き継ぎました。


「……それは」


「いつまで学校来るの?」


「来週一杯です」


「もうすぐじゃん!」


 河津さんがテーブルを叩きました。雑音が店内に響きます。


「向こうに行くのは?」


 吉奈さんは平板な声音を保っています。


「再来週の火曜です。十時の新幹線でこちらを発ちます。あの、お二人にお伝えできなかったのは、」


「天城」


 吉奈さんが席を立ちました。


「応援してる」


 そして彼女は出口に向かって行きました。


「天ちゃん。私……」


 河津さんは顔を背け、そして吉奈さんの後を追いました。


 テーブルにはカップが三つ残されました。


 もう、氷は溶けています。


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