ナイト&ブラック
傷だらけになっていく魂に比例して、鮮血と汚泥に穢れていく呪われた俺の身体。
衣服も身体の一部という判定からか、如何なる時でも破損することは無く。
ただ魂が、心だけが擦り減っていく。
その結果、残っていくのが──殺意と憤怒だけ。
研ぎ澄まされていく殺意を憤怒で燃え滾らせつつ、石造りの廊下を駆け抜ける。通り過ぎた側から次々と爆破……破砕音が鳴り響く。
音の振動を受ける肉体に激痛が迸るも、奥歯を噛み砕く勢いで、噛み絞め。
激痛の過多で錯乱する意識をある程度気付けして、目的を思い出す。
逃がさん……!
追いかける先にいる
逃げるクソムシは後ろに眼でも付いてるかの如く、最小限の動作で回避。距離を離される。
「クソっ……!」
悪態を吐いて足を動かす。やはり直接斬る他無いか……
廊下の四方八方から襲い来る罠を多少食らっても止まらず、走る。駆け抜ける。
足元の異音と共に、しまったと思って飛び跳ねた時には、もう遅く。
眼前の視界が閃光に染まり、身体が吹き飛ばされ、背中に激痛。その後地面に落ちる。
「──ッ、ごあっ!」
堪らず、苦悶の声が漏れる。
激痛に苛まれながらも即座に立ち上がり、クソムシを追う。
数分走り続け、クソムシが通路脇の扉を開け飛び込む。
「あそこか……!」
数秒遅れてクソムシが入った鋼鉄の扉の前に着き。
「逃がしやしねえ……!」
『いや、撒かれてるじャん。シソウくんのノロマ』
頭に響く邪神の声を掻き消す様に、刀を振って扉を斬り裂き、鞘を振るって吹っ飛ばす。
薄暗い内部に警戒しながら入る……奴は何処だ……
注意深く様子を伺っていると、突如白光に照らされる。
眩しさに目を細め、光に慣れると其処には──鋼の巨人が居た。
眼前に聳え立つ巨人を見て、鞘と刀を握る手に力が入る。
「……ロウガイアー……」
その巨人は、狼の頭部に滝のような白銀色の顎髭を携え、流麗ながらも禍々しい黒い装甲を纏っている、巨大な
巨大ロボットから音が漏れ、声が響く。
《殺刃鬼……あなたは僕と、このイーケ・アルガで止めてみせる!》
響くクソムシの声を無視して、ロボット……イーケ・アルガを改めて眺める。
……細かい部分に差異はあるが、子供の頃に見た、あの姿。
「思い出を、穢したな」
怒りが発する殺意を重ね。
傷だらけの魂を刃に変えていく。
殺す。殺してやる。
「その鉄屑から引きずり出して、ぶち殺してやる」
ロウガイアーもどきをバラバラにするべく、宙を跳ぶ。
転生者……コウトの首を刎ね飛ばし、
「あのクソガキ……死んでねえよな……」
数時間前まで活気のあった町が今や面影の欠片すらなく、所々隕石のクレーターやら
数分、激闘の疲労を癒し、立ち上がる。
「くたばってようが、別に良いか……」
短く溜め息を吐き、深呼吸。
コウトとは別の方角から不愉快な異臭を嗅ぎ取り、軽く吐き気を催しつつ、疲れきっている足を無理矢理動かして進む。
『いやァ~、随分派手にドっタンバっタンしたねシソウくん』
「狙ってやったわけじゃない」
『狙ッてやッたんなら私肝心なトコでシソウくんの邪魔に勤しむわよ』
「………お前は一体何がしたいんだ」
『邪神の思考回路をシソウくんごときが読めるワケないじャなーい。フフ、怯え奉るがヨロシよ』
……相も変わらず邪神との会話は神経が削れる。
徹頭徹尾無視したいが、何されるか分かったもんじゃない……
歩いていると風の音に紛れて呼ぶ声が聞こえ、上を見る。
巨大な翼を羽ばたかせるサンタくんに、騎乗しているムン……生きてやがったか。
「……よう」
「“よう”ってなんですか。ふざけてるんですか」
『あらら。ムンちャんお冠だねェ。シソウくん何したの! ウチのムンちャんに何したのシソウくん!』
うるせえな。
この状況で腹立てる事なんざ
進む歩は止めずに、歩きながらムンに訊く。
「それで……どうだったんだ。お前から見た俺の特訓の成果は」
「んー……序盤の方しか見れてないので正確には判断しかねますが。五〇点ですね」
「おい。序盤ってのは、どういうことだ」
「どうもこうも、シソウさんがエルフの頭をミンチにしてから転生者がでっかくなってその余波から逃げたんですよ」
「………」
ムンのもっともな言い訳に言葉が詰まり、短く溜め息を吐く。
「……五〇点の評論を聞こうか」
「攻めの姿勢は良かったですよ。得物を用いての連撃も中々でしたね」
「そうか……」
……ムンが皮肉も罵倒もせず淡々と良い点を述べるのが不気味でしかないが、どうせこいつの事だ。不愉快な批評でコキ下ろしてくるんだろうな。
「残りの五〇点ですが、まず単純に相手の攻撃を食らい過ぎです。刀の
『ム……ムンちャんが真面目に評価してる……ウソでしョ……』
邪神程では無いにせよ、俺もムンの至って真面目な指摘に絶句する。
コイツ本当にムンか……?
黙ったままの俺を不審に思ったムンが半眼で睨んでくる。
「何ですかシソウさん。そんな仏頂面で見つめて。張り倒されたいんですか」
「……お前にしちゃ真面目な評価解説だと思っただけだ」
「お望みなら罵詈雑言をギッチリマシマシにしてあげましょうか?」
「断る」
「それなら、ほら。さっさと次の転生者の場所に行きますよ」
俺はサンタくんに向かって跳び、ムンから伸ばされた手を掴んで引き上げられると同時にアイツの後ろ側へと座る。
手綱をしならせ、サンタくんに指示を出すと、進んでいた方向へと飛んで行く。
「シソウさん、これ」
ムンの肩越しから出された本を受け取り、表紙を見る。
「……“イヌでもわかる。攻撃回避の極意”……題名がふざけてんのはお前のセンスか?」
「失敬な。シソウさんの知能レベルに合わせた教本をチョイスしてるだけです。大体、緻密な科学用語やら計算式がギッチリ詰まった教材渡してシソウさん解読できるんですか」
「お前の顔に投げつける弾にして終わりだな」
「そーゆー展開になるから、その本です。題名はともかく、内容はそこそこちゃんとしてるので、無駄にはならないかと」
「どうせならきっちりちゃんとしたヤツ出せよ……」
呆れつつ、サンタくんの背に揺られながら読み進めていく。
しばらくして日が暮れ、ムンが野営の準備を済ませると、槍を持って対面していた。
……まあ、本だけ渡して終わりな訳ないよな。
「さて、シソウさん。特訓のお時間です」
「……で。何やるんだ」
「今回の特訓は至極単純です。攻撃をひたすら避けてください。シソウさんは攻撃しちゃダメですよハイよーいスタート」
「最初の特訓ぐらいちゃんと始めやがれッ!」
最早恒例となりつつあるムンの不意打ちを紙一重で避け、繰り出されるムンの攻撃をどうにか回避していく。
「ほれ、ワン、ツー、ワン、ツー」
「クソガキが……ッ!」
間抜けな掛け声と槍の突きに怒りが募り、手にした
「動きに無駄が多いですねぇ。とぉー」
「うおっ」
足下を薙ぎ払われ、咄嗟に跳躍。
『あーらら。ジャンプしちャうかーシソウくん』
「隙ありぃー」
「ご、はっ……!」
ニャーの声が響くと同時に、脇腹に槍の柄を叩き込まれ、吹っ飛ばされる。
「ぐ……げほっ、ごほっ」
「まだ終わりじゃないですよー」
「クソ……ッ!」
むせた呼吸を整える暇もなく、ムンの追撃を死に物狂いで避けていく。
「ぜぇ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ま。今回はこんな所ですかね。それにしてもシソウさん……避けるの下手くそですね……」
「う……うるせえ……っ、げほッ……」
仰向けで倒れる俺をムンが眉根を寄せて見下して呆れる。
不愉快な煽りにも辛うじて答える程度の気力しか残って無いが……クソガキめ……ボコスカ殴りやがって……
「また夜になったら特訓やりますので。それではお休みなさい」
「……ああ。お休み」
欠伸混じりにテントへ入るムンを見送り、テント付近に座り込んで渡された書物を再び開く。
それから数日。移動しては野宿、そして特訓を繰り返したある日。
特訓で数度殴られ、痛みに顔をしかめつつ、焚き火をムンと囲む。その背後のサンタくんに餌付けしながら、ムンが尋ねてくる。
「そういえば。シソウさんって好きなものあるんですか」
「……いきなり何なんだ」
「いえ。あちこち一緒に行ってるのにシソウさんのこと大して知らないので。興味本位です」
『私もシソウくんの趣味嗜好性癖聞きたァーい!』
こんなクズどもに俺の個人情報を話す義理なんぞ一ミリも無いんだが……どうにかして誤魔化せないか。
「ムン、お前はどうなんだ。好きなものとかってのは……」
「私ですか? 別に教えても良いですけど。シソウさん私に興味あるんですか?」
「……尋ね返したという事は興味があることにならないか?」
「今ちょっと間がありましたよね」
喉まで出かかった“微塵も無い”という言葉を呑み込み、無難な返答をする。
若干の間に突っ込みを入れられるが、ムンは気にせず話し始める。
「食べものなら、レンのオスが一番好きですねぇ。脂ぎった肉が実にジャンクなフード感で……じゅるり」
「そうか……」
「訊いておいてその態度は何ですか。刺しますよ」
「言いながら突いてくんじゃねえよ。危ねえだろうが」
不満げな声と共に繰り出されるムンの刺突を、首を傾けて躱す。
槍を地面に突き刺し、側に置いていた水筒に口を付けて一口飲んだムンが気の抜けた溜め息を吐く。
「で? シソウさんは?」
「……何がだ」
「好きなものですよ。私は言ったんですから教えてくださいよ」
……くそ。流せると思ったが、ダメだったか。何と答えるべきか。
「家族……だな」
「あぁー、結構です。そーゆーの。変に使命感が絡んだ“好き”とか聞いててつまんないんで」
「お前な……」
「もっとこう、シソウさん自体の趣味とか、交尾したくなるようなメスのタイプとか、パーソナリティに絡んだ事を教えてください」
「趣味はともかく後半は何だ。下世話にも程があるだろ」
「うっさいなー。四の五の言わずに私の質問に答えてくださいよ」
腹が立って不愉快極まり無いが、ムンの奴も不機嫌になりつつあるな……そろそろまた槍が来そうな予兆はする。
『私がシソウくんの記憶弄ッちャッたからねェ。いい機会だから、覚えてるコト思い出してみなよ。幼少時代の思い出とかさ』
頭に響く邪神の声に更に腹が立って眉間に皺を寄せつつ、言われた事を吟味する。
思い出……か。
「幼少期に見ていたアニメ……“悪星狼鎧ロウガイアー”とかは、好きだったな」
そこから、少しずつ思い出しながらムンに語っていく。
悪星狼鎧ロウガイアー。別の惑星に移住した寿命を超越した老人たちの家畜である主人公が、ラスボスに拐われたヒロインを取り戻すべく自我のあるロボット、ロウガイアーと共に戦っていくという話。
当時、“勧善懲悪”をテーマにした作品が溢れ返る中で、悪星狼鎧ロウガイアーは徹頭徹尾、“拐われたヒロインを取り戻す為に戦う”。良く言えば一途一徹、悪く言えば子供の癇癪。
どれだけ疲弊しても。取り戻す為に何もかもを犠牲にしても走らずにはいられない、その姿が。子供ながらに胸を打たれたのは覚えている。
訥々と話し、視線を焚き火からムンに移すと。
「……ぐぅ……」
ヤツは抱えた膝に顔を埋めて寝ていた。
腹が立った俺は手元に置いてあった薪をムンに投げつけ、一悶着起こし、翌日の夕方。
転生者の腐臭を辿り、ようやく到着した街……国だかは、巨大だった。
飛んでいるサンタくんの背から見た時にも思ったが、余りにも大きい。
周囲を旋回し、運転しているムンは片方の手で地図を持ち、眼下の都市を見比べる。
「あれ、ゴサヒノザケマーって都市だそうですね」
「……入国というか、普通に入れるのか?」
「うーん。警備というか、イスエ・クアイにしては珍しくハイテク盛り盛りエリアなので無理ですかね」
『転生者も随分張り切ッて文明レベル三段跳びでアゲてきたねェ~。ほら、来たよ』
「……! ムン!」
「あー……っとーに面倒くさい……シソウさん、飛ばしますよ」
言うよりも早く、俺はムンの腰に手を回し、ムンはサンタくんの手綱を繰り、突如飛来する……おそらく弾丸……を避ける。
次いで現れたのは猛禽類程の大きさの、飛行機。ドローンとかいうやつか。
突如繰り広げられるドッグファイトに、振り落とされないように、しがみつき、ムンと風にかき消されない音量で緊急に段取りを確認する。
「シソウさん!
「っ……、都市の、中央にある! 一番高い塔だ!」
俺の声で目的地を視認したムンは、手綱を限界まで引き、サンタくんの頭を吊り上げ、背後に向かって落下──ドローンを振り切って、急降下。
「追手を撒きつつ、どうにかしてっ……シソウさんを塔の最上部に放り込むので! あとは流れで!」
「ふざけた段取りだが……ッ、それしか無いか……!」
新たに増援したのか、追い付いて来たのか。横目で背後を確認すると、ドローンが追ってきていた。
それから、目が回る程の無茶苦茶な軌道で飛び回り、塔の頂上付近に迫る。
「シソ──ウさんっ!」
ムンの声に、サンタくんの上に立ち──飛ぶ。
一瞬の浮遊感、次の瞬間には硝子の割れる音、そして背中に激痛、再度、激痛。
身投げの同然の形で侵入には成功したが……クソ……痛え……
どうにかして立ち上がり、周囲を確認。
臭いは依然として此処が一番強い──
「っ………」
「あっ」
扉が開かれ、開けた奴と目が合う。
普通の人間。
数秒。お互いに硬直、先に動いたのは、扉を開けた──
奴は扉を乱暴に締めるが、俺は蹴破って、後を追う。
走りながら刀の柄を握り、告げる。
「転生者よ、今永遠の死を与える」
抜刀、襲い来る全身の激痛に怒りを燃やして耐え。刀を振りかぶる。
宙を跳び、斬りつけようとした瞬間、鉄塊が迫り、背後の壁もろとも突き破られる。
『へェー。跳んでるシソウくんをピンポイントで殴れるとは。やるねェ、
背中と身体の前面から迸る激痛に、更なる怒りを燃やす中、外の景色を横目で見る。
夥しい程の摩天楼が、極彩色を帯びて夜を照らしていた──どうでもいい。
思い出を──憧れを──数少ない、宝物を。
穢した、コイツを、転生者を。
「生かして──堪るかァッ!」
距離を空けられる中、ロボット……イーケ・アルガを狙いつつ、塔も纏めて斬空で斬り裂く。
数秒置いて積み木を崩すように崩壊する塔。
その光景を視界に収めつつ、勢い良く鼻で呼吸する──腐臭は、背後。
目線を上に向けると別の塔の上に立って居た。
イーケ・アルガが顔を天に向け、遠吠え。
狼らしい声が大気を震わせ、俺の身体を激痛が苛む。
刀の……
転生者を見据え、跳躍。摩天楼の上に着地。
遠吠えに呼ばれたのか、イーケ・アルガと同じ大きさのロボットがぞろぞろと群れをなして飛翔して現れる。
《サヴァツ団長! 無事ですか!?》
《あれは……殺刃鬼……!》
《どうやってゴサヒノザケマーに……?》
《皆、動揺するのは解るけど、今は!》
《ああ、我が“アルジェントウイングス”が至宝、サヴァツ・タラク団長の為に戦うぞ!》
《皆さん……ありがとうございます!》
『フフ。いッぱい出て来たねェ。あんな大きいロボット達が相手じャ流石のシソウくんも──』
「一瞬で終わらせる」
足場を踏み砕いて跳躍。怒りを、殺意を、刃に籠めて。
「おぉおおおおおッ!」
叫び、縦横無尽に跳び、増援に現れたクズどもを擦れ違い様に斬り刻んで、瞬時に解体。頭部と胸部を徹底的に破壊し、絶命させる。
《そんな……アリー、ルヴァ、エーチェ、イテス、ネルエ……!》
「次はお前だ」
『……いや、ホントに一瞬で終わらせるッて。え? 何? どうしたのこれ? 話聞こか?』
「死ねクソアマ」
邪神の茶々を一蹴し、再び跳躍。イーケ・アルガに向かって跳ぶ。
増援を一瞬で殺されて、ようやく脅威に思ったのか、即座に背負った武器である、鋏をそれぞれ分けたような長剣を構える。
《最初から全力で──》
「やらせるかよボケクズが」
イーケ・アルガが長剣の峰を合わせようとした瞬間、長剣の真上へと跳び、鋏斬空で長剣を破壊する。
《なっ……!?》
「死ね」
そのままイーケ・アルガの脳天を唐竹割で仕留めにかかるが、ロウガイアーを元にしてるだけあって、驚異的な俊敏さで距離を空けられる。
《スコルとハティが……くっ……!》
ロウガイアーの有する長剣、スコルとハティ。持ち手が輪になっていることから、変幻自在な斬撃を繰り出せる。
更には長剣同士を合体させ、大剣に変形することも可能。
転生者の……サヴァツの発言からして、確信する。やはり、ロウガイアーを真似ている。
その事実に怒りと殺意が際限なく膨れあがる。
怒りは活力にし、殺意で思考を研ぎ澄ます。剣を壊された奴の次の一手は……
《剣が、無くてもっ!》
イーケ・アルガが両腕を真横伸ばすと、狼型の頭部に蓄えられた白銀の顎髭が腕に絡み付き、即席の槍と化す。
《はぁっ!》
拳を放つ様に腕を伸ばすと、白銀の槍が風を切り裂いて迫り来る。
繰り出される刺突を避け、弧を描いて距離を詰めていく。
《そこだッ!》
「甘いんだよクズが」
一方向に動いているのを隙だと思ったクソムシはイーケ・アルガの腕を横薙ぎに振るい、打ち払おうとするが。
即座に上に跳躍、カウンター気味に鋏斬空を放つ。
《うわっ》
「ちっ……!」
胴を真っ二つにするつもりだったが、外した。
それにしても──
「弱い。弱すぎる」
俺の知っている、本来のロウガイアーならば。
今頃完膚無きまでに叩きのめされているはずだ。
『いくら何でも崇拝しすぎじャない? アタシを差し置いてそんなに崇拝するなんて……浮気よシソウくんッ』
「崇拝のしすぎ……そうかもな」
『あら珍しい。シソウくんが脊髄反射で私の言うことに反論しないなんて』
「それだけ俺が、あの作品を好きだったということだろう」
『ふゥーん。結構お熱だッたのねェ……あッ』
邪神の声でイーケ・アルガを注視すると、掌を地面に付け、右腕のみに絡みついた髭が本来の長さを超えて放射状に地を這っていく。
「……
ロウガイアーは……主人公機のテンプレとでも言うべきか、唯一無二にして異端の能力が有る。
それが理外法則……アウトロウ。
第一段階は自己改造。
第二段階は掴んだ物の変形改造。
そして最終段階は、伸ばした髭を媒介に触れている物全てを支配する、“
星の海を彷徨い、星を造り変える。ヒトの希望にして、最悪の侵略決戦兵器。ロウガイアーがロウガイアーたる所以。
「猿真似ばかりの屑鉄が」
不愉快だ。
地を這う髭が俺の立っている場所も呑み込もうとしていく。
「ちっ」
舌打ちと同時に跳躍。宙を舞う俺に狙いを定めたイーケ・アルガも跳躍。
《
「その名を、使ってんじゃねえぞクソムシィ!」
迫り来る大質量の剣。巨大な摩天楼が轢き潰そうと、眼前を埋め尽くす。
「く……ッ、おおおおおっ!」
両腕を交差したまま、空中を蹴り、大質量の剣を軸に螺旋状に落下。イーケ・アルガを視界に捉え。
「お゛ぉおおおおおッ!」
交差した腕を振り抜く。斬れたのは、足一本だけ……軽やかに宙を舞うイーケ・アルガは右腕から伸びた髭を切断、失くした右足を補填すべく、髭で即席の義足を造る。
自由度の効く義足で着地した転生者に追撃を叩き込む為に外壁を踏み砕いて破壊しながら跳躍して距離を詰める。
奴は懐に飛び込まれるのを嫌ったのか、義足を巧みに使いながら、俺を正面に据えつつ後退。
逃がさん。殺す。
囲む様にイーケ・アルガを刀で斬り付けていくが、ロウガイアーに似せているだけあって、硬い。
だが、俺としても普通の斬撃や斬空、穿空程度であの鉄屑を破壊できるとは思っていない。
手始めに、精神を削る。
「いくらガワだけ似せても、乗り手がゴミクズじゃ持ち腐れだな」
《……君はやっぱり、ロウガイアーを知っているんですね》
かかった。
高速で跳び回りながらの俺の言葉は、通常なら聞き取れる訳が無い。恐らくだが、音声を機械で拾ってるのだろう。
本当に賢いヤツなら俺の発言に反応などしないし、真性の馬鹿ならそもそも逃げずに遮二無二殺しに来る。
典型的な頭でっかちで阿呆の動き。
「異世界に転生してまでごっこ遊びとは、余程脳に障害があるようだな」
《君は、転生者を殺して一体何を……どうしてそんなにロウガイアーを──》
「見た目だけ似せて、機能もそこそこ似せて、良かれと思って付け加えた蛇足に反吐がでる」
《言わせておけば……ッ!》
「“セイリオス”も……“魂”も搭載してないロウガイアーなんぞ鉄屑以下のガラクタでしかない。肝心の要素を入れてない時点で中途半端なんだよ。“にわか”のボケカスが。作者に詫びて腸掻き出して死ね」
《貴ッ──様ァあああああああ!》
『シソウくんがこんなにも他人を煽れるなんて……! ムンちャんと私の調教の甲斐あッたわ……! 感動的ッ!』
黙れクソアマ。何億歩譲ってもお前やクソガキの甲斐では無いし、ましてや調教されてもいない。
程よく怒らせて沸騰するサヴァツ。勝負は一瞬。
怒らせ続けて頭に血が巡って変に知恵を付けられても面倒だ──決める。
突進するイーケ・アルガを避け、背後に跳躍。狙いは、右腕と右足。
「ふっ──!」
強く短く息を吐き、鋏斬空を放つ。イーケ・アルガの右腕右足が千切れ飛び、追う様にして跳躍。刀を上段、鞘を下段に構え。
「ダルマにしてやる」
左腕を狙って縦に鋏斬空を放ち、斬断。
奴は背中に付け加えた
もう、終わりだ。
追いかけるイーケ・アルガの背にロウガイアーの面影を重ねて目を伏せ──見開いて睨む。
「お゛ぉおおおおおっ!」
ロウガイアーの幻影を振り切り。
イーケ・アルガの首を鋏斬空で刎ね飛ばす。
蠢く髭諸共斬り飛び、胴体だけとなった鉄屑は数秒浮遊、落下。慣性で地面を抉りつつ、止まる。
煙と異音を撒き散らすイーケ・アルガの残骸を視界に収め、一歩ずつ……全身を激痛に苛まれながら……近づいていく。
警戒心を厳に引き上げて胴体部分を見ていると表面が開き、サヴァツが現れた。這い出た奴は所々負傷して血を流し、腰に佩いてる刀を抜き放つ。
……どこまでも神経を逆撫でする野郎だ。
サヴァツがイーケ・アルガの胴体から飛び降りるのに合わせて突撃。
刀同士のつばぜり合い。多少負傷して弱っても
「ぐ……ああッ!」
「ちっ……」
サヴァツに押し返され、刀から火花が散り、吹っ飛ばされる。
空中で後転して力を受け流し、穿空の構えに移行、乱れ突く。
「お゛ォおおッ、らあッ!」
「う……ぐわっ……!」
不可視の刺突を紙一重で避けられる。奴の背には鉄屑の残骸。好機。
「死ィ、ねぇえええッ!」
渾身の力で空を蹴り、刀の切っ先をサヴァツに向け再度突撃。
崩した姿勢でも俺が見えていたのか、更に姿勢を崩して刀の切っ先の下を潜られる。
一点に力が集約された残骸は空に吹き飛び、爆発。爆炎に照らされるサヴァツを捉え、跳躍。
「う、ああああっ!」
執拗に襲ってくる俺に恐怖したのか、引けた腰で刀を振り下ろしてくる。
……食らった所で凄まじく痛いだけではあるが。
こんな糞の極みみたいな攻撃を食らってやるつもりは無いし。見てるだけで不愉快だ。
半身を反らしつつ、回転しながらサヴァツの右腕を斬り飛ばす。
「──ッがぁあああああああ!」
響くクソムシの絶叫、鼓膜を震わせるだけのソレですら俺にとっては想像を絶する程に不愉快な
回転の遠心力を活かしたまま、サヴァツの背後に回り、左右の膝下を斬断。
「あああああっ──ぐあぁあ!」
更なる絶叫で加えられる激痛に怒りを燃やし。サヴァツの、左腕を斬り落とす。
文字通り
「ああぁぁ!、あ」
絶叫は間抜けに途切れ、地面に転がった、サヴァツの頭を。
「──お゛ォオッりゃああッ!」
渾身の怒りと力を込めて、踏み砕く。
「人のっ、思い出を、穢した、奴がッ! 顔が、残ると、思うなあッ!」
飛び散る肉片、足裏に感じる肉と骨の感覚が無くなるまで何度も。何度も、徹底的に踏み潰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます