スマホを壊して世界を知った

槻木翔

第1話

僕はスマホを壊したことで世界の真理に辿り着いた。

 きっかけは些細な事故だった。

 風呂でスマホを使ってたら手を滑らせてしまって。割れていた画面の隙間に入った水で端末が壊れてしまった。

 たったそれだけの些細な出来事が僕と世界の関係を根本から変えてしまったんだ。


 異変を感じたのは次の日の朝だった。いや正確には昼というべきか。起きなければいけない時間を大きく過ぎた時間に目が醒めたんだ。随分気持ちのいい目覚めだったけれども壁掛けの時計を見て絶句した。

 それでもまあ、どうせ上司には怒られるだろうと思うと不思議と落ち着いた。

 不思議だ。以前こういうことがあった時は今頃誰もいない空間に向かって土下座をしていたはずなのに。


 異変は家を出てからも続いた。駅に着くと周りの人たちが全員スマホをみつめてくださいイヤホンで耳を塞いでいる。

 まるでスマホから誰かの指示を受けて動いているように見えた。

 そしてなぜかいつもよりもぶつかりそうになる回数が多い。

 ここで僕は真実に気づいたんだ。

「人々はスマホを通じて支配を受けているのだ」

 この考えは僕の違和感を完全に拭い去った。

 今朝目覚めが良かったのはスマホによる支配から開放されたからに他ならないのである!

 目覚めるのが遅れたが今まで朝早くに起きれていたのはスマホによって企業戦士としてのマインドが刷り込まれていたからに違いない!

 さっきから人にぶつかりそうになるのは、僕だけスマホとイヤホンによる制御を受けていないからなんだ!


この考えは衝撃的だった。一刻も早く誰かに伝えなくては。

 ポケットに手を突っ込んで僕は気づいた。

 自分がSNS的なものにこの事実を書き込もうとしていたことに。そしてスマホの故障によって支配から開放されていたことに。


 SNS的なものに書き込むことができなかったので昼休みの人が疎らなオフィスにたどり着いたときにたまたまいた上司にこの驚愕の事実を語り聞かせた。上司はガラケー派なので権力者に事実にたどり着いていることを悟られる心配もない。



 結局上司には怒られた。

 起きれなかったのは目覚ましがならなかったからで、土下座をしなかったのは会社からの電話が繋がらなかったから。人にぶつかりそうになったのは今まで気づかなかったニアミスにも気づいていただけだと言われた。



 納得した僕は会社の帰りに新しいスマホを買った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スマホを壊して世界を知った 槻木翔 @count11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る