第6話 一ー六

 『何がサッカーだよ!』

由香が去った後、俺はしばらくそのカフェに独りたたずんでいた。いや、正確に言うと、俺はその場から動けなかった。俺は決して霊感は強い方ではないが、その時は金縛りにあったのではないかと思うほど、手も足も言うことをきかなかった。

 そんな「金縛り」にあった俺だがとりあえず注文はできたみたいで、由香が好きだった甘めのカフェオレを無意識のうちに注文する。そしてそれを口に入れると―、ミルクのほんのりした甘みとコーヒーの苦みが溶け合ったいい味がする―はずが、今日だけはやたら苦みの方が増しているような感じがした。

 そして俺は思う。食べ物・飲み物の味は、その人間の精神状態によって変わるものだ、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る