第45話:魔王様の策略
私たちの世界は『魔王様のゲーム』と呼ばれる、ゲームの世界だった。
そしてそんな世界に住む魔王様の野望は、人気がなくなって終了させられそうな『魔王様のゲーム』を継続させること。ミズハさんから創造神に繋がる窓を開いてもらった魔王様は、野望を果たすため、颯爽と飛び込んでいった。
ゴーゴー魔王様! ガンバレガンバレ魔王様!
私たちの世界をどうかお願いします、魔王様っ!
――だと言うのに。
「むぅ、ひどいめにあったわ」
「あ、魔王様、もう戻られ……って、どうしたんですか、そのお顔!?」
なんだか水兵さんみたいな服に着替えたミズハさんと禁断のガールズトークを繰り広げていると、魔王様が例の真っ黒の窓からにょっきと飛び出してきた。
それ自体は別に驚きでもなんでもないんだけど……えーと、顔がまるでシゲルマ・ツザキというモンスターみたいに真っ黒になってますよ?
「どうしたもこうしたもない。おい、ミズハよ、本当にあやつらが創造神なのか?」
「あー、まぁ、正確には創造神に雇われている人たちなんだけど……えっと、どんな感じでした?」
「うむ。菓子を豚のようにむさぼる男だとか、ボサボサでフケだらけの頭をぼりぼり掻きながらブツブツいうヤツやら、『クソがっ!』『草生えるwww』で語彙が八割を埋めるヤツもいてな。おまけにこやつらがまた一様に慌てて『いつもご利用ありがとうございます。問い合わせいただきました件につきましては現在調査中でございます。詳細が分かり次第、弊社ホームページ上にて公表いたしますので、もうしばらくお待ち下さい。これからも魔王様のゲームをよろしくお願いいたします』という文章をひたすら生み出してはどこかへ送り出すのだ。なんなのだアレは?」
「うわぁ、サポセン最悪ぅ」
「おまけに余を見て『この忙しい時にウィルスとかふざけんなボケ』とかぬかしおってな。こちらに小さなアイアンゴーレムを大量に送り出して来おったと思うや、そやつらが呪文の詠唱や予備動作もなくいきなり墨を吐いたり、自爆したり、電撃を放ったりとムチャクチャやりおるのだ」
「ああ、それで顔面真っ黒なんですね」
私がハンカチを差し出すと、魔王様は「ありがたい」と、ごしごし顔を拭き始めた。
あうあう、真っ白なハンカチがあっという間に驚きの黒さ。
「さすがに面食らった。とりあえず魔法で吹き飛ばし、一時退却してきたのであるが……まずはどういうことか説明してもらおうか、ミズハよ」
「んー、だから言ったでしょ。大変だって」
「大変以前に、創造神に会えないではないか!」
「そう、だから、会うこと自体がすごく難しいんだって」
「なん……だと?」
「あのね。魔王さんのところは上下の隔たり無くアットホームな組織なのかもしれないけれど、普通は上の人に会おうと思ってもそう簡単に会えないようになってるの」
そしてミズハさんはこの世界の組織構成というものを教えてくれた。
「なんと! つまり余が創造神に会うには、先ほどの奴らを束ねるリーダーに会い、さらにその上司に会い、続けてまた上の……」
さすがの魔王様も絶句する。
「うん。しかも、サポセンの人たちに今回の魔王さんの来訪は、誰かの悪戯だと思われているみたいだね。まぁ、しょうがないけど」
「しょうがないとはどういう意味なのだ?」
「だって、魔王さんがゲームの世界を離れ、突然モニターの中から『創造神に会わせろ』と言ってくるなんて、普通ありえないもん。まず誰かの悪戯ウイルスだって判断されるよ」
「と言うことは……もしや奴ら、余の来訪を上司に報告しないのではあるまいな?」
「あるまいな、じゃなくて、間違いなくしないよ。ぶっちゃけた話、今回みたいな悪戯は珍しくないし、私だってモニターの中に魔王さんが出てきた時は、まずその可能性を疑ったし。まぁ、魔王さんに加えて、キィちゃんまで現われたら信じるしかなかったけどさ。って、それよりも」
ミズハさんはまた耳たぶのクマさんをいじると、また窓をひとつ出現させた。
窓は今までよりも数倍大きくて、なにやら文字が浮かんでいる。ミズハさんが指を上に動かすことで、文字もさささーと下から上へと流れていった。
「あー、なんでもうほとんど遊んでいる人がいない『魔王様のゲーム』のサポセンが忙しいんだろうって思ったんだけど……確かにこれは一大事ですわ」
そして窓に浮かんだ文章を一通り読み終えたミズハさんが、一大事と言いながらも苦笑した。
「なるほど。これは便利であるな。おかげで余も状況が理解できた」
おまけに魔王様も深く頷く。
「え? 魔王様、さっきの読めたんですか?」
「うむ、上に流れるスピードが速かったが、文字そのものは我らが使うものと同じものであったからな」
まぁ、時折知らぬ、おそらくはスラングかと思われる言葉もあったが、と魔王様。
「さすがは魔王さん、これがなんなのか分かるんだ?」
「おおよその見当はつく。おそらくは『魔王様のゲーム』を遊ぶ者たちが集い、文章で意見交換をする場なのであろう? ところでミズハよ、この騒ぎはさすがに創造神にも話が伝わっているであろう?」
「伝わっているどころか、今頃必死になって原因解明をしているはずだよ。だって、ゲームのクリア対象である魔王さんが世界から消えちゃったんだから」
「魔王様が消えちゃったってココにちゃんと……ああっ!?」
ようやく私にも事態が飲み込めた。
そうだ、魔王様がここにいるってことは、私たちの世界には今いないわけで。
ましてや魔王様がここに来た時って、ミズハさんと一緒に突然消え失せたんだった。
世界を征服しようと企む魔王様……もとい冒険者にとっては一千万という大金がかかる魔王様の消滅、これは混乱するだろう。
「しかし、『一千万はどうなるんだ?』、『俺が倒してゲットするはずだったのに、クソ、今からサポセンに電凸してくる』『にわか乙。魔王様のゲームのサポセンはメールのみ受付だよ常考』……まったく、こやつら賞金のことしか言っておらぬな」
「でも、すごいね。たった一時間でスレを五つも消費してるよ。多分、この祭に乗じて普段はやってない人もここぞとばかりに参加してるんじゃないかな」
ミズハさんによるとここで「魔王を討つつもりでゲームしてたのに、どうしてくれるんだ? 謝罪と賠償を要求するニダ」と訴えることで、少しでも分け前にありつこうとするのらしい。
「うーん、あさましいというかなんと言うか、呆れて言葉も出ないですねぇ」
「うむ、高級素材をネコババしようとしていたキィの言葉とは思えぬ発言ではあるが」
うわん、魔王様、それは忘れてよ!
「まぁ、しかし、そのあさましさから創造神への道が開く手口を思いついたぞ。感謝する」
「え? それはどういう?」
意味ですかと訊く暇もなく、魔王様はとある窓の中へ飛び込んでいった。
「わわっ、魔王様、また策もなしに飛び込んでも撃退されるのがオチですよぅ」
さっきと同じ真っ黒の窓に飛び込んだと思い込んだ私は、慌てて引きとめようと声をかける。
だって、ハンカチはもう持ってないんだ。また次も同じように真っ黒けになって戻ってきても、もはやはたきで顔をぱたぱたはたくしかない(そして間違いなくそんなことをしたら怒られるだろう。てか、私が同じことをされたらキレる)。
「違うよ、キィちゃん。魔王さんが今飛び込んだのは……あっ!」
ミズハさんが驚いた声をあげる。視線の先にはさっきの文字が浮かんだ窓。その窓にまた猛烈な勢いで文字が現われた。
『魔王、キターーーーーーーー!』
『ニーデンドディエスに魔王、出現!!!』
『てか、魔王、なんてところに立ってやがるしwwwww』
他にもなんだか○だか()やら、ωやらで人の顔を象った文字が並ぶけどとりあえず無視。
「魔王さん、あっちの世界に戻って一体何を?」
ミズハさんのクマさんタッチで、私たちの世界の窓が文字の窓と同じぐらいの大きさになる。
覗き込むと、そこは私たちの拠点だったニーデンドディエスの入り口広場。しかもこれ以上はないぐらいに人が集まっているなぁと思っていたら、広場に面する教会の屋根に
「魔王様っ!?」
そう、魔王様が涼しい顔をして立ち、今まさにとんでもないことを言い出したのだった。
「ニーデンドディエスの諸君、及び全世界の人間たちに宣告する。
魔王である余は神への道を開いた。
故にこれより神への進撃を開始する。
余の野望を止めたくば、七日後、プーレステ大草原に来るがよい。
このふざけたお遊びに幕を降ろすのは余か、神か、それともお前たちか。楽しみにしておる」
そして。
にょき、っと。
宣告を終えたばかりの魔王様が『魔王様のゲーム』の世界窓から顔をのぞかせた。
「ま、魔王様! なんなんですか、今のは!?」
「キィよ、話はあとだ。それよりもミズハ、世間の反応はどうであるか?」
飛び掛らんばかりの私を冷静に制し、魔王様はミズハさんの返事も待たずに文字の窓を見やる。
「うん。あんまり神への道云々への追求はなくて、『魔王様のゲーム』最終決戦イベントの告知だと思われたみたい。この一時間の消失もイベント準備の為だったのかって見解で落ち着きつつあるけど……これ、運営は前以上に大混乱だよ、きっと」
呆れたようなミズハさんに、魔王様はさも当然とばかりに頷く。
「そうであろうな。魔王が神への道を開いたと発言したうえに、最終決戦まで勝手に宣告したのだ。おまけにまた世界から姿を消してどっかに行ってしまうのだから、その魔王がたとえ創造神の下部組織であろうと姿を現せば」
またまた出ましたっ、ニヤリと笑う魔王様ドヤ顔スマイルっ!
「今度こそ主に会わせる為、余を丁重に扱うに違いあるまい?」
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