第41話:神様はBLがお好き!?
「ま、まま、まままままままままま、魔王!?!?!?」
魔王様の発言に驚いたものの、あたし以上に驚愕する女の人のおかげで、なんだかちょっと冷静になった。
「うむ、魔王である。それにほら、キィもいるぞ」
魔王様に首根っこを引っ張られた。あたしは猫か!? と文句のひとつも言いたいのをぐっと堪えて
「あー、ども」
出来るだけこれ以上驚かさないように、ごく普通に挨拶した。
「き、き、きききききいきききききき、キィちゃんまで!?」
でも、なんだか卒倒しそうな勢いだ。ごめんなさい、ミズハさん。
ってゆーか。
「あ、あの、本当にミズハさん……なんですか?」
正直、魔王様の言葉を素直に受け取るには無理がありすぎた。
だって、あたしが知っているミズハさんとはまるで違う。顔も違うし、髪だってミズハさんは金髪のロングなのに対して、この女の人は黒髪のミディアムカットだ。
それにこう言っちゃ悪いけど、体型が……。ミズハさんはぼん、きゅっ、ぼんだけど、窓の向こうで驚く女の人は、あたしと同じように三三七拍子の「チャッ、チャッ、チャッ」って感じで控えめだった。
だけど。
「信じられない。なに、この三流SF漫画みたいな展開……でも、スゴイ!」
満面で喜びを表現する姿は、ミズハさんとどこかダブって。
「うわー、スゴイよ、凄すぎるよ!」
喜びのあまり、あたしに飛びつこうとするあたり、どこからどうみてもミズハさんだった。
「スゴイけど、一体どうして? なんでこんなことになってるの?」
「いや、それはむしろ余こそ訊きたい」
魔王様が珍しく困惑したように、ミズハさんに尋ねた。
「余はおぬしたちが違う世界から来たものだと思い、そちらに行くつもりだったのだが、何故かこんな何もないところに来てしまった。おまけにどうすれば元の世界に帰れるのかも分からぬときておる」
「えええ!?」
帰る方法が分からないって、そんなっ!?
「こんなところでは茶菓子どころか、茶すらも出てはきまい。はて、喉が渇いておるのだがどうすればよかろうか?」
「知らないよっ、そんなこと!」
あたしは魔王様の頭をぽかりと叩いてやった。
ああ、なんてこったい。魔王様、のんきに喉が渇いたとか言ってる場合じゃないですよっ!
あたしは大いに焦った。
が、結論から言うとあたしたちの世界へ戻る手立てはすぐに見つかった。
困惑の表情を浮かべながらボケる魔王様と、本気のツッコミを入れるあたしに、ミズハさんは「ちょっと待ってて」と言うと窓の向こうでしゃがみ込んだ。
すると、途端に真っ暗だった世界に明かりが点いて、色々な窓があちらこちらに現われたんだ。
その中のひとつにあたしたちの世界への窓があった。
どういうわけかミズハさんがいる世界への窓には入れなかったけれど、元いた世界の窓には容易に入ることが出来るようだ。
というわけで、魔王様は今、喉を潤しに元の世界に戻られている。
そしてあたしは、と言うと……。
「キィちゃんも、女の子なら分かってくれるでしょ? この禁断のロマンを!」
「は、はぁ」
ミズハさんの懸命の説得に、ただただ顔を赤らめて頷くしかなかった。
ちらりとあたしの傍に浮かび上がった窓の中を覗き見る。
何故かすっぽんぽんの男の人ふたりが乳繰り合っていた。
「さて、喉も潤ったところで話を訊こうではないか。ミズハよ、これはどういうことなのだ?」
戻ってきた魔王様が紅茶の入ったカップを啜りながら、窓の向こうのミズハさんに問いかける。
地面に座りっぱなしなのはどうも心もとないという理由で持ち込んだ椅子に座り、同じく運んできたテーブルには熱々の紅茶が入ったポットと、山盛りのスコーン。朝まで(いやすでにもう朝だけど)生討論もOKな、万全の準備ぶりだった。
「そんなの、私こそ訊きたいよ。魔王さんってさ、どこまで知っているの? ……その、貴方たちの世界とか、私たちのこととか」
「余はお前たちが別の世界からやってきたということぐらいしか分からぬ。しかも、それも単なる推測だ」
「推測って、それ自体が信じられないんだけど……」
ミズハさんが嘆息する。
「普通、そんな推測なんて出来るわけないよ。だって、貴方たちは」
「お前たちに作られたのであろう?」
「えええええええ?」
しれっと答える魔王様に、もう何が明かされても驚くもんかと思っていたあたしもあっさりと驚いた。
時間にしてわずか一分。早すぎだ、あたし。
「なに、そんなに驚くことではなかろう? そもそもキィたちも、自分たちを作った存在として神を信仰しておるではないか。その神と同じ世界からミズハたちはやってきたのだから、こやつらが余たちを作り出したと言っても過言ではあるまい」
それはそうだけど……。
あたしはチラリと例の窓を見る。
……神聖であるはずの神様の趣味がBLってなんだかなぁ。
「まぁ、正確には私たちと同じ世界に住む人が作っただけで、私は何もやってないんだけど……でも、そんなことに気付いちゃうなんてスゴイなぁ」
「ふむ。お褒めいただき恐悦至極、と言いたいところなのだが、実は違うのだ」
魔王様が胸ポケットから例の
「ほんの数ヶ月前のことである。余のもとに一人の魔導士が現れたのだ。白いローブに身を包み、ローブの奥にかすかに見える肌も透き通るように白く、言葉すらも無色透明という表現が相応しいほどに澄み切っていた」
魔王様の回想話が始まった。
これは長くなりそうだ。
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