第26話 名スピーチは、いつも外国人
みなさん、童話の「裸の王様」、覚えていますか?
1837年、今から180年近く昔に発表されたアンデルセン童話のひとつの物語です。新しモノ好きの王様が詐欺師の仕立て屋にだまされ、「愚か者には見えない服」とそそのかされて裸のまま領内を練り歩き、一人の少年に「王様は裸だ」と指摘されて初めて自らの愚に気づかされる、という内容でしたよね。
王様は自ら「愚か者」と認めたくないので「服が見える」とうそぶき、家臣も“忖度”して見えるふり。何にも権力としがらみのない無垢な少年が口にした真実でみんな我に返るという寓話でした。
国連会議ではしばしば、こうした「目からうろこ」の名言、名スピーチが登場します。
2013年7月、マララ・ユフスザイさんのノーベル平和賞時のスピーチが大きな話題になりました。
「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン。それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。エデュケーション・ファースト(教育第一)。」(抜粋)
2015年3月の持続可能な開発会議でのウルグアイ大統領ホセ・ムヒカ氏のスピーチは「世界一貧しい大統領のスピーチ」として世界各国で翻訳、出版されました。
「もしドイツ人がひと家族ごとに持っているほどの車を、インド人もまた持つとしたら、この地球はどうなってしまうのでしょう?」(抜粋)
マララさんやムヒカさんのスピーチ全文はネットや書籍でご確認下さい。
そして、2019年9月23日。国連の気候変動枠組条約サミット。
ここで、主役となったのはトランプ大統領でも小泉進次郎環境相でもなく、スウェーデンからやって来た16歳の少女でした。高校生ながら環境活動家のグレタ・トゥーンベリさん。
彼女の演説内容を抜粋しました。
「なにもかも間違っている。私がこの壇上にいるべきではないし、私は海の反対側で学校にいるべきだ。それなのに、あなた方は私たち若者に頼って希望を求めにくる。よくもそんなことを。あなた方は、私の夢や私の子供時代を、空っぽな言葉で奪った。私たちは絶滅の始まりにあるというのに、あなたたちが話すのはお金や永続的な経済成長のことばかり。この状況を理解していて行動を怠り続けるなら、あなたたちは悪だ。あなたたちが望んでも嫌がっても、ここから、世界は目を覚まし、変化は訪れる」(抜粋)
日本からは小泉進次郎環境相が出席したものの、演説はなし。事務局長のグテレス氏が各国政府に求めたのは単なる演説ではなく、具体策を用意しない国に対しては演説を認めなかったからです。
これに対して、小泉大臣は22日、ニューヨーク市内で記者団に「そういう事実は全くない」と否定したそうです。彼は「日本に演説のオファーが来たものの、安倍首相の日程調整がつかず、首脳級以外の演説が認められなかった」と主張しましたが、海外メディアの報道は正反対でした。世界各国の代表を驚かせたグレタさんが、スウェーデンの「首脳級」でないことは明らかで、小泉大臣の発言と明らかに矛盾します。どちらの主張に
ちなみに報道によると、石炭火力発電の新規建設に反対する同会議は安倍晋三首相と豪のスコット・モリソン首相の参加は認められず、現在、先進国から「一周遅れ」の経済発展途上にあるブラジル、サウジアラビアも不参加だったということです。誤解しないでほしいのは、日本を含め自発的に参加を見合わせたのではなく、参加を断られたという事実です。
話はスピーチに戻ります。
こうした名スピーチ、グレタさんやマララさんと同世代の日本の高校生になぜできないか、とお思いの方も多いことでしょうね。いるんですよ、本当は。その機会を与えないのは、こともあろうに日本政府そのものなんです。
2年前の2017年8月、スイスにある国連ジュネーブ本部で毎年開催される軍縮会議で、日本の高校生平和大使が予定していたスピーチを政府がキャンセルしたためです。同盟国のアメリカを慮って前月の核兵器禁止条約に参加しなかった日本政府が「国際舞台で高校生に核兵器廃絶を主張されては赤っ恥」と思ったに違いありません。「忖度」ですね。地球上で唯一の核兵器による被爆国・日本はアメリカの“核の傘”の下にいるので、核廃絶に反対できないのです。その一点で、高校生の言論の自由を封殺したわけです。自分たちのメンツのために。
これでは、若者が政治に絶望し、関心を持てなくなくなってもしかたありません。政府に、若者の「政治離れ」を批判する資格なんてないんです。あっ、政府の本音は、若者には政治に関心なんて持ってほしくないんだった。自分たちの決めたことに“盲目”的に従ってくれる方が“操縦”しやすいから、むしろ喜んでるんだった…。
もう少しで渋川ゼミの連中に、吊し上げを食らうところでした。
最近は、アメリカが、「自らの言うことを聞かない」ことを理由にユネスコを脱退したり、EUをリードする立場の一翼を担っていたイングランドが離脱を表明したり、世界で“自分ファースト”がブームです。ある意味「無責任」な流れに安心したのか、アメリカのユネスコ脱退と同じ理由で日本は国際捕鯨委員会(IWC)を脱退、商業捕鯨を再開しました。この流れが進むと、核不拡散条約を脱退する核保有国が出てきても不思議ではありません。もし、そうなったら…。
想像するだけで不安が募ります。世界のリーダーには冷静かつ謙虚な熟慮をお願いしたい昨今です。
さあ、みなさん。今夜あたり「裸の王様」、手に取って読み返してみましょうか。
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