第16話 2020オリ・パラでは観客も試される

  日本人選手の金メダルの数や暑さ対策、交通混雑の緩和ばかりがクローズ・アップされる2020オリ・パラ東京大会。直接間接に選手や外国からの訪日客に関わるボランティアだけでなく、日本人の観戦客も浮かれてばかりはいられません。

 みなさん覚えていますよね。最近のオリンピックやワールド・カップの会場で、日本人応援団やサポーターが試合後のスタンドでゴミ拾いをする姿。そのスピリッツは海外メディアにも「フェア・プレー」と称えられました。


 さて、2020。いままでは海外の会場でしたが、今回の舞台は東京近郊。「外面(そとづら)」は満点でしたが、果たして「内面(うちづら)」はどうか。真価が問われます。

海外でできるのなら心配ないだろう、との向きな声もおありかと思いますが、懸念材料はいくつかあります。

 ひとつ目は「観客の違い」。海外でスポーツ観戦するのは現地在住の日本人や「観戦慣れ」したいわば常連客。一方、東京大会の観戦客は「不特定多数」。果たして「そのマナー」が文化として根付いているのかどうか。年数回の野球観戦の経験を思い出すと、少し心配です。試合後のスタンドにはビールが入っていた紙コップや弁当、菓子などさまざまなゴミが散らかっています。最近はさすがになくなりましたが、神宮球場では吸い殻も珍しくありませんでした。大きなゴミ袋を持って拾っているのはお揃いのユニフォームをまとった係員。いまでは野球ファンにすっかり定着したジェット風船の後片付けも大変です。「楽天スタジアム」では一定数の風船を拾ってきた子どもたちにもれなく非売品の選手グッズが当たるシステムを導入し、美化にも努めているのはごみ対策です。ほろ酔い気分でジェット風船は飛ばしたものの、その行方に責任を持つ人はほぼいません。自分の回りに散らかっているのは文字通り、他人の「息がかかった」無残に伸び切った風船ですから、素手で拾いたくない気持ちは分かりますが…。みなさん、どう思いますか?


 二つ目は、「日本人選手や日本チームの成績」。予選はともかく決勝ラウンドはメダルに直結します。期待外れに終わった場合の一部観客の心理は想像に難くありません。思い出して下さい。大きなレースで本命が負けた時の競馬場。千切れた外れ馬券が紙吹雪のように宙を舞う風景。後片付けをするのは誰でしょう。思い出して下さい。プロ野球やJリーグの試合で負けたチームのファンやサポーターが、あろうことか試合終了のホイッスルが鳴る直前まで力強く口元に当てていたメガホンをグラウンドに投げ捨てる光景。拾い集めているのは誰でしょう。ヨーロッパのフーリガンに比べればおとなしい方ですが、見苦しいのは言うまでもありません。豪華客船の出航式で船から岸壁の見送りへ投げられる色とりどりの紙テープ。別れを惜しむより楽しんでいるとしか見えませんが、後片付けをしているのは誰でしょう。結婚式のライス・シャワー。チャペルの庭を掃除するのは誰でしょう。懸念材料はまだまだありますが、大会まで1年を切った今の段階ではこのくらいで…。


 日本人選手の金メダルの数や暑さ対策、交通混雑の緩和ばかりがクローズ・アップされる2020オリ・パラ東京大会。直接間接に選手や外国からの訪日客に関わるボランティアだけでなく、日本人の観戦客も浮かれてばかりはいられません。今から「お・も・て・な・し」の心構え、気構えが求められます。


 


 いずれにしても、不特定多数の集団心理には読み切れない要素が多々あることだけは読み切れます。国内のスポーツ観戦で「当たり前」になっている「負の文化」がオリ・パラに持ち込まれず、海外で育んできた「日本人のマナーの良さ」まで汚すことのないよう願っています。懸念材料はまだまだありますが、大会まで1年を切った今の段階ではこのくらいで…。


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