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 二人は並んでゆっくりと歩き始めた。どうして並んで歩いているかというと、それは二人がしっかりとお互いの手を握り合っているからだった。

 それからしばらくして、「はっくしょん!」と、夏がくしゃみをした。

「どうしたの? くしゃみなんて珍しい」と遥が言う。

「さっきの場所、すごく寒かった」鼻をすすりながら、夏が言った。

「当たり前でしょ? 本来、立ち入り禁止区画なんだからさ。散歩の途中にそんな格好で、しかも私の許可もなしで、本来は入っちゃいけない場所なんだよ。あそこは」と、笑いながら遥が言う。

「ごめんなさい」と夏は素直に誤った。そう誤ってからこんなに素直に謝れる自分に、夏は少しだけ驚いた。

「うん。いいよ」遥が言う。

 夏は遥が笑ってくれて、嬉しかった。内心、もしかして遥が怒っているのではないかと思ってどきどきしていたのだ。

「ねえ、遥」

「なに?」

 二人は歩き、それから少しして夏が遥に問いかける。

「タイムマシンってなんだと思う?」

「空想の概念」遥は即答する。


 やっと、君に会えたね。


 夏 終わり

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夏(旧) 雨世界 @amesekai

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