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「どうかしたの?」遥が言う。
「なんでもない」夏が言う。
愛想笑いをする夏に、遥が疑惑の目を向ける。
しかし、いつもならともかく、今回の場合は夏の嘘が遥にばれる心配はこれっぽっちもないだろう。何故なら遥には夏の隣に立っている、このもう一人の木戸雛の姿が、本当に見えていないようだからだ。
夏は白い部屋の中に目を向ける。
構造は四角いケーキを仲良く二人で半分こしたように、ガラスの壁の向こう側とまったく同じだった。
向こう側と同じように、こちら側にもドアが一つだけくっついていた。
「あのドアはどこに続いているの?」夏が質問する。
「秘密」案の定、遥は答えをくれない。
「あのドアの向こう側は私の研究室になっているんですよ。あ、私って言っても私が研究をするんじゃなくて、私を、研究する部屋ですけど」と雛が言った。
……研究? お腹でも切り裂くの? 夏が心の中で思う。
「違いますよ。そんな怖いことはしません。裸になって、いろんな検査をするだけです」と雛が言う。
ふーん、なるほどね。
「あ、なんですか、その反応は? 全然興味ないって感じですよ?」と雛が言う。
「この部屋はなんのためにあるの? この子をここに閉じ込めておくため?」夏が言う。
「それも秘密」
「この部屋は私の命を守るためにあるんです。私はこの部屋を出ると、そう長い間、生きることができない体なんですよ」と雛が言う。
どういうこと?
「私の体はとても弱くて、とても清潔で、綺麗な環境でないと、すぐに衰弱して、死んでしまうんです。ちょっとでも汚れがあると、もうだめなんです。それくらい私は繊細な生き物なんです」(なぜか)嬉しそうに雛が言う。
この部屋だけ?
「はい。この部屋とあとは同じような二、三の施設の中だけです。比較的綺麗な空気のあるドームの中でも地上だと、私は長い間活動することはできません」
長い間活動できないって、どのくらい外に出られるの?
「そうですね……。七日間くらい、ですかね」雛が言う。
七日間。
「はい。だいたい七日間くらいです」
蝉と同じだ。そんなことを夏は思った。
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