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 しかし、夢が終わっても、夏の経験した不思議な体験は、まだ終わりを告げていなかった。

 夏の眠っていたベットの中に夏と一緒に眠っていたはずの遥はいなかった。いつの間にか遥はいなくなっていた。

 その代わり、そこには木戸雛がいた。

 いや、それを木戸雛と呼んでいいのかどうかわからない。

 でもそこには確かに白い靄(もや)のような、少女の姿をした半透明色の子供がいた。その形は、その姿は、どう見ても木戸雛のように見えた。

 夏はその幽霊のような女の子を見たとき、自分の半分くらいがまだ夢の中に残っているような気がした。

「その考察はだいたいあっていますよ」と幽霊の女の子が言った。

「あっている?」夏が言う。

「はい。あっています」薄暗い寝室の中で、幽霊が笑った。

「あなたは、誰?」

「私は雛です。木戸雛。先ほど、夢の中でお話をしたでしょう? 夏さん」そう言って雛は笑う。その笑顔は確かに夢の中でお話をした木戸雛の笑顔によく似ていた。

「さあ、行きましょう、夏さん」

 状況がよく飲み込めない夏に雛が言う。

「行くって、どこに?」

「もちろん、遥のところです」小さく笑って雛は言う。

「ここにいるあなたは、あの現実にいる、ガラスの壁の向こう側で座っている、あなたなの?」

「少しだけ違います」

「現実の私は、今もあの部屋の中にいます。ここにいる私は、その現実の私の半分、といったところでしょうか?」うーんと、首をひねりながら難しい顔をして雛が答える。

「魂、のようなもの?」

「そうですね。まあ、そんな感じです」雛は言う。

「現実のあなたは、目も見えなくて、耳も聞こえなくて、言葉を話すこともできないって、本当?」

「本当です」雛は言う。

「現実の私はいつも、硬い殻の中にいます。そこから出ることもできません。私はそんな現実の私のために、こうして度々、外の世界をお散歩して、その様子を現実の私に教えてあげるんです」そんなことを雛は言った。

「そうなんだ」夏は言った。(私に似てるね、と夏は思った)

 二人はそっと手をつないだ。

 雛の手はまるで氷のようにひんやりとしていた。

 夏と雛は手をつないだまま、寝室を出て、それから真っ白な通路を歩き出した。

 雛が歩くたびに、ぺたぺたという変な足音がした。

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