37 立ち止まることなんて、もうきっとできない。

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 立ち止まることなんて、もうきっとできない。


 結局、夏は地上を走ることにした。

 遥と一緒に地下の海を泳いだ時間は楽しかったけど、どうしても走ることを忘れることができなかった。夏は遥にそのことを話し、地上を走る許可をもらった。

 夏は遥も一緒に走ろうと誘ったのだけど、それは断られてしまった。遥は今、地下の研究所のどこかで自分の仕事に没頭しているはずだ。二人はそうして個別行動をとることになった。

 寝室に戻り、用意してきた青色のジャージに着替えをした夏は、あの長い時間のかかるエレベーターに乗って、一人で地上に移動した。エレベーターの中で夏は遥の、まるで蝉みたいでしょ? という言葉を思い出していた。夏が地上に出ると、そこは地下とはまったく別の世界が広がっていた。

 空は晴れ、青色。

 太陽の時間と、緑の森。

 草原。

 そして、人工の風。

 半分だけ本物で、半分だけ偽物の世界。

 いや、あるいはすべてが偽物なのかもしれない。昨晩、あの遥とキスをした時間に、本物としか思えないプラネタリウムを見せられた今となっては、空にある太陽と、あの青色の空がガラスの天井に映し出された映像ではないと夏には言い切ることはできなかった。

 大地の上を走ることにした夏のために、遥が空の色を青色に塗り替えてくれたのかもしれない。

 その可能性は十分にあった。

 夏はその場で目を閉じて、深呼吸をした 

 暗闇の中で、太陽の熱を感じる。

 偽物とは思えない。

 夏のよく知っている熱がそこにはあった。

 夏は目を開ける。

 はじめはゆっくりと歩き出し、徐々に加速をして、やがて夏は舗装された道の上を自分のイメージ通りに軽快なリズムで走り始めた。

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