20
「本当に?」
「うん。本当に」
「そっか」
嬉しい。夏は素直にそう思った。
「夏。ありがとうね」
「なんのこと?」
夏が聞く。
「私に会いに来てくれて」
遥が夏の顔を見た。
遥は笑っている。
「……うん」
夏は言う。
それから遥から視線をそらして、また足の先っぽを見つめた。
「あ、そろそろだよ」
遥が言う。
夏はその言葉を聞いて顔を空に向けた。
相変わらず真っ暗な空。
そこに薄紫色の淡い色をした雲のようなものが浮かび上がっていく。
まるで宇宙の創世のように、薄紫色の雲はまとまりを持って丸い形を一つ、一つと作り出していく。
その光景を見て、まるでわたあめのようだと夏は思った。口に含んだらきっと甘い味がする。
薄紫色の雲は高速で動き、収縮し、やがて拡散して消えていく。
そしてあとには数億という数の星の光が残された。
闇は晴れ、そこに星が生まれた。
それはガラスのドームに映し出された人工の光。人の手によって生み出された偽物の宇宙。だけど、それは確かに美しかった。夏の目はその偽物の星々の光に釘付けになる。
「綺麗」夏が言う。
遥は無言。
「夏、こっちを見て」
少し間をおいてから、遥の声。
夏が遥のほうを見る。
そこには遥の顔があった。
それも夏の顔のすぐちかく。本当に目の前に小さくて可愛らしい遥の顔があった。
夏は無言。
でも驚きでその両目は大きくなる。
遥のおでこが夏のおでこにくっついた。それから引き寄せられるように二人の唇が触れ合った。本当に軽く。ただ優しく触れ合っただけのお子様のキス。
それは夏が経験する生まれてはじめてのキスだった。
遥の小さな唇はとても柔らかかった。
はじめての相手が、遥でよかったと思った。
唇が離れて遥が笑う。
それを見て、きっと夏も笑っていたと思う。
夏と遥。
空には今も人工の星々が輝いている。
でも、夏の目はもうその光を見てはいない。
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