第13話 久しぶり、巨乳。
そんなこんなで、気がつけば数日気持ち悪いほどに予定はトントン拍子に上手くいき スムーズに僕が謎のジークヴァルトという人に預けられる日が来てしまった。
ここまで上手く行ってるのって、どう考えても誰かが裏から手引きしているだろ。
どうせ、アルバートの兄弟だろうけど。
手引きしているのが誰にしろ、ジークヴァルトの元に行くことはすでに決定事項。逆に、俺からすれば待ち遠しいほどだ。
しかし、そんな素振り見せられるはずない。
少なくとも、人が見ている前では寂しがる五歳児を演じなければならない。
「お父様、お母様、ロゼット、寂しいですがお別れです……さようなら」
ジークヴァルトが寄越した馬車の前で、俺は最後の挨拶を交わす。アルバートもマリアンヌもロゼットも、まぁ見事にボロ泣きだ。ロゼットは何日も前から朝から晩まで泣いているせいで、せっかくの大きな目が野暮ったく腫れている。
さて、俺からすれば寂しさなどというものは一切感じていないわけだが、その代わりに1つ心配事があった。それは、俺のいない間のこの家についてだ。
アルバートとマリアンヌはこの通り兄弟や親戚から舐められまくっている上に、人を疑うということが全くできない性格であるため、いつ誰に騙されるかわからない。
ロゼットだって警戒心がまるでないし、2人が決めたことについて言葉を挟むことは一切ない。
つまり、誰も自分の過ちに気がつかないままに他人に利用される可能性が非常に高い。もしも俺が帰って来た時に、この土地の所有権が他人に取られていては困る。
ここは、死守しなくては。
そこで、俺は1つの作戦を講じた。
「お父様、お母様、ロゼット、僕が向こうに行ってもお手紙を書いていただけませんか?たくさんお手紙をもらったら、きっと寂しくなくなります!」
こんな愛くるしい息子の提案に、三人とも必ず手紙を送ると約束してくれた。
やっぱり、ちょろい。
この作戦のメリットは、三人が三人とも手紙を書けば、三つの違う観点から現状を知ることができ、手紙を書いた人間の先入観や固定概念を取り払うことができることだ。そうすることで、より的確な判断を提示することができる。
我ながら素晴らしい作戦を思いついたものだ。
まぁ、この三人に正常な現状報告を期待していないが そこそこ分かればそれでいい。
俺は馬車に乗り込み、窓から三人に手を振る。
「ルカ、必ず手紙を書くからね」
「何かあったらいつでも帰ってくるのよ」
「坊っちゃん!坊っちゃんのお帰りをいつまでもお待ちしております!」
感動の別れ、と言うべきだろうか。
三人が泣きながら手を振っているのを見ながら、俺をそれなりに手を振った。そんな泣かなくとも、どうせ戻ってくるんだ。大袈裟な。
37にもなれば、大抵の別れの悲しさは一時的なものであることを知っている。
だからこそ、なんとも思わなかった。
それよりも、俺の頭の中にはジークヴァルトという人物のことしかない。
アルバートから得れた情報は、頭の良い人なんていうアバウト過ぎるもので全く参考にならない。俺の事前に得た情報にもないということは、周囲に関係している人でもなさそうだ。
一体何者なんだ……?
馬車を寄越すことの出来る財力はあるとして、名の知れた人なのかはわからない。
謎だらけだ。
大きな旅行カバンと俺を乗せた馬車は、ガタゴトと揺れながら目的地まで走って行く。
道中、特に大きな街を横切ることはなかったが 代わりに小さな村らしきところは通った。
レンガ造りの家々が並び、割と多くの人々が行き来している。活気はそこそこだ。しかし、その村を横切った後は再び木々をかき分けて進んで行く。
ちくしょう、ジークヴァルトって奴も山暮らしかよ。
体感時間で、約4時間。
ようやく目的地に到着した。
着いた頃には雨が降っていて、御者が傘を差してくれた。俺からすれば、例の暑苦しいローブを被っているから傘の必要はないが一応ご好意は受け取っておこう。
「坊っちゃん、申し訳ありませんが あっしはここから先は行けないのです」
「え?」
「玄関に着きましたら、メイドが待っておりますから 彼女に着いて行ってくだせぇ」
御者って屋敷には入れないのか?
軽く疑問に思いつつ、まぁ気にするほどのことでもないと俺は一人で屋敷に入った。
それにしても大きな屋敷だ。アルバートの屋敷とは全く違う。厳かな雰囲気で堂々としているが、どこか薄気味悪い。何だろう、この違和感というか落ち着かない感じは。
屋敷に入ると、御者の言う通り一人のメイドが立っていた。
……巨乳だ。
男としては、こう言う情報は何よりも先に確認してしまう。いかんいかん、五歳児。自重しなければ。
だが、見事な巨乳だ。
この世界に来て、女といえばマリアンヌかロゼットしか会っていないが どちらも特に特筆すべきほどの乳ではなかった。どちらかといえば貧乳の部類に入るか。
ともなれば、久しいたわわな乳を特筆するのも仕方ないだろう。俺は悪くない。
「ルカ様、お待ちしておりました」
「は、はい」
じっと胸ばかり見つめていたら、唐突に声をかけられ思わず声が裏返る。メイドは、落ち着いた声で表情も変えずに話し出した。
「私は、この屋敷のメイドでニナと申します」
胸にしか目が行ってなかったが、顔もそこそこ整っている。俺の好みではないが、バリバリキャリアウーマン顔って感じだ。無表情なのが若干怖いけど。
「ジークヴァルト様の書斎まで、ご案内いたします」
「あ、はい、よろしくお願いします」
言われるがまま、ニナの後ろをついて行く。
屋敷の中は雨のせいか薄暗く、ぼぉっとしたろうそくの明かりが見えるだけで洋館のお化け屋敷みたいだ。あちこちに変な絵画が飾ってあり人が住んでいるとは思えないほど無機質だ。
どうやら書斎に着いたらしく、ニナは大きな扉を二回ノックする。すると、部屋の方から低い声で、入室を許可する声がしてガチャリと扉が開いた。
「ようこそ、我が屋敷に。歓迎するよ」
そこには、白髪ロン毛で痩身長駆の男が一人立っていた。
ここの屋敷の人って、座る文化がないの?
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