第28話 学祭準備①

 学祭。それは、人と関わりの薄い上野にとって、苦痛でしかなかった。去年は一般公開以外をトイレで過ごしたという悲しい過去を持つ。

「はあ...早く終わんねえかな」

 上野が窓の外を見ながら呟いていたのは、昼休みの終わり。この日の5、6時限目は、クラスの出し物を決める時間となっていた。


 キーンコーンカーンコーン....

「きりーつ、礼」

「お願いしまーす」

「じゃあ、この2時間は、クラスの出し物を決めるから、ルーム長達を中心に話し合って決めてね」

 担任の話が終わり、雄一と高原が出てくる。彼は副ルーム長も務めていた。

「じゃあ、案がある人は挙手して下さい」

 ハイ!ハイ!と、男子を中心に次々と手が挙がる。

「メイドカフェ!」

 というムードメーカー的存在の男子に対して、

「ちょっと!あんた、女子見たいだけでしょ!」

 と、高原が一蹴する。

「別に高原のは見たくねーよ」

「なんですって!?」

「はいはい。そこまで。他に案は?」

 と、雄一は2人を制して、話を進めた。

「縁日は?」

「お化け屋敷!」

「脱出ゲームとか良くない?」

 と、クラスの陽キャを中心に話が進んでいく。そんな中、上野は窓を見てボーッとしていた。その時、ポケットがブーッと震えた。見ると、スマホに一通のメッセージ。

『自分のクラスなんだから、空見てないで話聞きなさい!』

 唯からだった。反射的に唯の方を見ると、向こうでニコッと笑っている彼女がいた。バイトで慣れていたが、不意の笑顔に上野はノックダウンされた。

『そっちこそ、案の一つでも出したらどうなんだよ』

『私、お化け屋敷やりたいから。もう出ちゃってます〜』

『卑怯だろ』

 そんなやり取りをしている上野の隣に人影。

「上野君?一応、今は授業中だから携帯はしまっておこうね」

 そこには、担任の先生が仁王立ちしていた。

「す、すみません」

 チラッと反対側を見ると、唯がお腹を抑えて笑っているのが見えた。

“唯のせいで怒られたじゃん”

 と、分かりやすいように口パクで伝える。

“私のせいじゃないもーん。面白かったよ”

“ひどいな。チクってやろうか?”

“そんな勇気ないくせに〜”

“なんだと!?”

 と言ったところで、お互いにプッと吹き出してしまった。

 上野は空を見た。

『いつもと変わらないのに、彼女がいるだけで気持ちがこんなに満たされるのは何でだろう。こんな毎日が、これからも続けばいいのに』

 心の中で上野は思った。


「それでは、このクラスは縁日をやるということで。起立、礼」

「ありがとうございました」

 気がつくと、話し合いは終わっていたようだ。まだ若干ウトウトしている上野の横に雄一が歩いてくる。

「直也。お前、最後ずっと寝てたろ?意見出せって」

「ごめんごめん。眠気に勝てなくてさ」

「全く、お前いつも眠そうだな」

 と、笑いながら雄一は上野を小突いた。そして、上野に顔を近づけた。

「で?北川さんとはどうなった?」

「ええ!?ど、どういうこと!?」

「授業中もなんかずっとイチャイチャしてただろ。前から見るとめっちゃ分かりやすいぞ」

「見てたのかよ...別に、何もないよ」

「やっぱり北川さんのこと好きなんだろ?」

「.........うん」

「ほら。お見通しだって。いつでも相談乗るからな。なんかあったら報告よろしく!じゃあな」

 雄一は教室の外へと出て行った。

「結局、夏休みも特に進歩なしか...。それにしても、皐月の奴...」

“好きなの”

 花火の音で微かにしか聞こえなかったが、上野にはそう聞こえた。

「あれ、どういうことだよ...流石に、俺の聞き間違いだよな...あの皐月が、あり得ない」


 勝負の学祭まで、あと1ヶ月を切っていた。

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