第27話 2人の気持ち

「直也君、本当にありがとう。君のおかげで仕事が捗ったよ。お疲れ様」

「いえ、こちらこそ泊まり込みなんかでご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。お世話になりました」

「これからもこっちに来た時は寄ってね。泊まる時も安くするから」

「ありがとうございます。本当にお世話になりました」

 そう言って上野は駅へと歩いて行った。

「パパ、私送ってくるね」

 唯は上野の後を追った。その後ろから、

「私も行ってくるわ」

 皐月も続いた。

「おやおや...皐月まで。娘が2人とも取られちゃったな」


「直也ー!」

 後ろからお馴染みのあの声がする。大好きな声だ。唯は少し息を切らしながら直也の横へと着いた。

「北川さん」

「駅まで一緒に行こ。あとさ...」

 皐月も上野の後ろ姿が見えるところまで来ていた。

「そろそろ唯って呼んでくれないかな?もうそんな他人って訳じゃないじゃん?」

「えっ!?いや...うん、分かった」

「ほらほら、呼んで?」

 冗談の様にも聞こえる唯の発言に、上野の顔がみるみる赤くなる。

「ゆ、唯...」

 唯も同じ様に赤くなっていく。その時、夏の生温い風が強く吹いた。

「わっ!」

 上野がよろけた唯を支え、2人の視線が合う。

「直也...」

「唯...俺...」

「あんたら何してんのよ」

「わっ!」

「うわぁぁ!!皐月...」

 上野の後ろに、ほっぺたを膨らませてふてくされている皐月がいた。

「さーちゃん。これはちょっとした事故でね」

「そうそう」

「ふーん。何でもいいけど、電車来るわよ」

 そう言って皐月は上野の前を歩いて行った。上野と唯も後を続いた。


 上野が電車に乗って行った後、ホームで皐月は唯に話しかけた。

「ねえ、唯。やっぱりあんた、直也のこと好きなんでしょ」

「...違うよ」

「嘘。双子だもん。見てれば分かるわ」

「さーちゃんさ、お祭りの花火見てる時...」

“好きなの”

 唯は皐月がそう言っていた様に見えた。

「さーちゃんも...」

「ええ。私は直也のことが好き。それに唯さ今、“も”って言ったわよね?同じなのよ。私も唯も、直也のことが好きなの」

 唯の心臓がバクバクと鳴る。顔が火照る。


「やっぱり、そうだよね...。私、直也のことが好き。好きなの」

「...知ってるわ。私は花火の時に伝わらなかったこの気持ちを、学祭でもう一回伝える。今まで、唯とは助け合ってきたつもりだけど、今回だけは譲れない」

「うん。さーちゃん...」

「何?」

「私も、負けない。どっちが直也に好きになってもらえるか、早い者勝ちだよ」

「ええ。望むところよ」


 上野の知らないところで、双子の姉妹の静かな勝負が幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る